第3話 ぎらつくもの

 ベッドで腰掛けて待っていると、時間ちょうどにドアがノックされる。

「はい」

鍵を開けて、ドアノブを捻る。

「昨日は眠れましたか?」

俺の顔を認めると、ワットさんは言った。

「それなりには」

眠れてはいたんだと思う。ただ、目が覚めてから、いくら待っても空が暗いままだと変な気分だ。身体の覚醒が中途半端で、少し喉が渇いている。

 彼女やモントローズさんの話が本当であれば、すぐに慣れるべきだろう。

 戸締りを確かめてから、彼女について廊下を進んでいく。


「では予定通り、アークトゥルス医科大学へ向かいますが」

職員宿舎を出て駐車場に回り、昨日と同じ車に、今日は助手席に乗り込む。車を発進させながら、彼女が言った。

「ライトハウス学区の学徒は、武装を義務付けられています」

「武装って」

そう言いかけたところで、昨日のメトロで会った少年を思い出した。あの時は自分のことで頭がいっぱいで気にもしなかったが、あの重たい金属感のある衝撃は、もしかしたらそういうことだったのだろうか。

 視線を正面から逸らさず、彼女は俺の目の前のダッシュボードを指さした。

「開けて下さい」

言われるままに、ボードを指の腹で押す。ぽんと開くと、中にあるそれが跳ね、ざらりとした表面をぎらつかせた。

「拳銃、ですか」

思わず唾を飲んだ。

「はい。急ぎだったので、私物しか用意できませんでしたが」

車は大きな橋を渡っているところだった。オレンジの灯りで、手の中のものが鈍く光る。


 初めて触るそれは、急速に俺の手のひらの熱を奪う。どうしていいかわからず、しばらく見つめていると

「弾は入っていませんよ」

と、ワットさんは微笑みながら言った。

「厳密にいえば、あなたはまだライトハウス学区の学徒ではありません」

交差点で止まり、信号が変わるのを待つ。

「武装義務はありません。ですが、持っているに越したことはないでしょう」

やはり車内はコーヒーの香りでいっぱいだった。シートに染み付いているんだろう。

「弾がなくても?」

変なことを言うな、と思って、疑問が口から出た。

「武装しているように見えればいいんです。今のところは」


 車内で太ももにホルスターを巻き、拳銃を収め、駐車場に降りる。ワットさんは、俺を庇うようにして少し前を歩いていく。片側に重量があり、歩きにくそうにしていると彼女が振り返る。

「強く巻きすぎましたか?」

そう言って俺の右脚に手を伸ばすが

「あっ、今度は自分でできますから」

と、咄嗟に口をついた。

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