第8話

「・・・リリス?」

「ごめんごめん、ちょっと目を離した隙にさ」

「姉さんが悪いんですよ?」

「アタシは止めたんだよ?」


 ヒカルさんに問いただされて、三人の奥様方、リリスさん、イヴさん、ガイアさんが答えた。

 狂犬を解き放った事を悔んだ様子は、私には見受けられない。


「私のパパに手を出すなら、命懸けだよ?」


 固まったまま私に告げるアカネさん。無言で肯定する奥様方。いや、私は、まだ、そんなつもりは欠片も・・・ナカッタンデスホントウデス。


「それじゃあ、儀式を始めましょうか」

「よろしくお願いします」


 なんとも恐れ多い事に、ユグドラシルの創造主達が立ち会っての継承の儀式である。執り行うのはリリスさん。


「まずは限界突破の儀式からね、アカネ、供物を並べて」

「うん」


 私の四方に置かれた台座の上にアカネさんが、素材を並べていく。

 通常ならば、一つ獲得するだけでも非常な困難を伴う素材らしいのだが、全てアカネさんの権限で即座に生成されたものだ。

 明らかなチート行為というヤツらしいのだが、リリスさんの許可が出ているので、誰も咎めたりはしなかった。恐縮!


「この私が全てを許す、以上」


 あまりにもあっけなく、私のレベル上限は解放された。自分の中で、視えない壁のような物が取り払われたような感覚があった。凄過ぎる!


「限界突破は、必要なレベルにさえ到達すればこれから何回でも出来るわ、素材集めはやりたければやっても構わないけれど、せっかくゲームマスターになるんだから、自分の分くらいはこれからも生成して構わないわよ、私が許す」

「はい! ありがとうございます!」


 直立不動!


「それじゃあ続いて権限移譲の儀式ね、アカネ」

「うん」


 アカネさんはスタスタと私の目の前にやって来ると、そっと、私の額に口付けをした。

 瞬間だった。


 ソコは真っ暗なヤミの中だった。

 とても静かで、とても温かい。

 ココにはきっと全てがあって、おそらくは何も無い。


 そんな、夢を視た。


 私のランクがCからEXへと変わった。あらゆる制限、拘束から解放されていく。無限の可能性を身体全体に感じる。コレ、ちょっと凄過ぎないか?


「レベルだけはまだ70のままだけれど、これから、きっとアナタも、もっとずっと強くなれる筈だから、頑張ってね。なんでも出来る魔法使い、素敵な目標じゃない。応援しているわ」


 そう言って、身を翻すリリスさん。他の奥様方も笑顔だけを残して、続いて去って行った。

 後には私とアカネさんとヒカルさんだけが残った。


「アカネさんは、これからどうするの?」

「私はこれから、パパにたっぷりと叱って貰うの、二人きりでね、ウフフ」

「「・・・」」


 私とヒカルさんの顔から血の気が引いて行く。うん、ホントにドン引き。

 それでも・・・


「「ありがとう、楽しかった」」


 アカネさんとハモってしまった。不覚。


「「またね」」


 以下、前文。

 ヒカルさんに手を引かれながら去って行くアカネさんを、手を振りながら見送って、一人になって、私は考える。さあ、どうする?


 これから始まる私の物語。

 最近流行りの異世界ライフ。

 私は、ゲームマスター専用のメニュー画面を開くと、現在ダンジョン内にいる冒険者達のリストを表示した。そのいくつかに、現在危機にあるという報せがあった。

 私は・・・


「今、行くからね!」


 見ず知らずの誰かの為に、誰かと出会う自分の為に、彼女の旅も、きっとまた続いていく。

 誰もが知っているシンデレラの物語。お姫様よりも魔法使いに憧れた、そんな少女の物語。

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無敵のヒーローズ @hikaru-takarada

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