第5話

「ごめーん、寝過ごしちゃって」


「・・・もぅ」


「ごめんってば!」


「・・・しょうがないな」




ラピスが手を合わせて謝ると、イヴは呆気なく許した。


半日も遅刻したにも関わらず、怒ったり呆れたりした素振りもない。




「ありがと」


「・・・ううん」




特段なんでもない事のように首を振れば、ラピスもいつまでも引きずる事もなく、本題を切り出した。




「急に呼び出すなんてどうしたの?」




ラピスは肩からアオウミウシを手に載せ換えてイヴの前に降ろす。


アオウミウシはゆっくりと海中へ帰っていった。




これは、イヴの会いにきてのサイン。


昨夜のうちに来たアオウミウシは、明日の昼に会いたいという意味を持っていた。


朝会いたいときはダイダイウミウシ、昼間会いたいときはアオウミウシを使いに知らせるのが、いつからか二人の連絡手段になっていた。




そして、それらのウミウシが来たときには、海中深くに入れないイヴのために、いつもラピスから会いに行くが慣習になっていた。




「・・・海鳥が、騒いでいたの」




不安そうな面持ちでイヴは簡潔に答えた。


それに対して、ラピスも表情を曇らせて頷く。




「うん、魚たちもだよ」




さっき、ここへ来るまでの間にトビウオやホオジロザメから聞いていた。


それはこの楽園の中心部、深海樹の辺りの異変について。

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