第4篇「古の盟約」(前編)

▢▢▢ 時を越えた到着 ▢▢▢


青い光が薄れゆく中、光輝こうき詩織しおりの姿が浮かび上がった。目の前には、巨大な掘立柱ほったてばしらが整然と立ち並ぶ。


「ここが三内丸山さんないまるやま......」


光輝のつぶやきに、タカミンが即座に反応する。


「データ解析中!時代は約五千年前、縄文時代前期後半。気温23度、湿度76%。驚くべき規模の集落跡だよ!」


詩織は息をんで周囲を見渡した。木々の間から、縄文人たちの暮らしが見えてくる。赤子あかごを背負った女性、熱心に土器を作る職人、獲物を運ぶ狩人たち。


「まるで、時が止まったみたい」


▢▢▢ 土器作りの少女 ▢▢▢


その時、近くの工房から黒い土器が転がり出てきた。


「あっ!」


小さな悲鳴と共に、十二、三歳ほどの少女があわてて駆け寄る。


「大丈夫、割れてない!」


少女は安堵あんどの表情を浮かべながら、不思議そうに二人を見上げた。


「わたしはタエ。あなたたち、どこから来たの?その着物、見たことない」


タカミンが青く光りながら、翻訳を始める。


「縄文時代の方言、解析完了!完璧に会話できるよ!」


▢▢▢ 襲来 ▢▢▢


タエは土器を手に取り、丁寧に拭いながら語り始めようとした。その時だった。


「来る!」タカミンの声が震える。「複数の人影、高速で接近中!」


木々の間から、漆黒しっこくの装束に身を包んだ集団が現れた。全身を黒土で染め、赤い模様を顔に描いている。


つちの民!」タエが叫ぶ。「なぜ、この聖なる場所に!」


「詩織、逃げて!」


光輝の警告が遅すぎた。黒装束の一人が煙を放つ土器を投げ込み、濃い霧が辺りを包み込む。


「光輝!」


詩織の悲鳴が霧の中から聞こえる。


「詩織!」


霧が晴れた時、そこには詩織の姿はなかった。


タエが震える声で言う。


「土の民は、なわ輪環りんかんを探している。きっと、あの人を人質に......」


▢▢▢ 次回予告 ▢▢▢


連れ去られた詩織の行方。


土の民が求める縄の輪環の謎。


そして、タエが語る意外な真実――


次回、「古の盟約・中編」、光輝の決断の時が訪れる!

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