第3篇「常世の森」(前編)

▢▢▢ 古の戦士との邂逅かいこう ▢▢▢


雲を覆う闇を裂くように、青い光がひらめいた。光輝こうき詩織しおりの姿が、深い森の中に浮かび上がる。


「ここが、日高見ひたかみの国......」


光輝のつぶやきに応えるように、タカミンの青いホログラムが明滅めいめつする。


「位置確認完了!現在地は現代の青森県東部。時代は......約2300年前!気温18度、湿度89%。原生林に囲まれているみたい」


詩織が火焔かえんの鏡を掲げると、その表面がかすかに輝きを放った。「鏡が何かを感知してるわ」


「うん!」タカミンが興奮した様子で舞い上がる。「北東の方角から強い波動を検知!黒曜石こくようせきの反応かも!」


▢▢▢ 謎の追跡者 ▢▢▢


森の奥深くへと進むにつれ、周囲の空気が変わっていく。こけむした巨木の間から、どこか人工的な痕跡が見え始めた。


「これは......」光輝が足を止める。地面には明確な足跡が残されている。


タカミンが素早くスキャンを開始する。「複数人の痕跡!しかも、私たちを取り囲むような......」


その言葉が途切れた瞬間、木々の間から数本の矢が放たれた。


「伏せて!」


光輝は咄嗟とっさに詩織をかばう。矢は彼らの周囲に円を描くように突き刺さった。警告の意味を込めた射撃だった。


「動くな」


りんとした声が響く。木々の間から現れたのは、漆黒しっこくの装束に身を包んだ戦士たちだった。その中心にいる女性戦士が、強い眼差しで二人を見据える。


「私はサクヤ。常世とこよの衛士の長だ。よそ者よ、何の目的でここに来た」


タカミンが即座に翻訳を始める。「古代日本語の特殊な方言!でも、しっかり通訳できるよ!」


▢▢▢ 常世の衛士 ▢▢▢


光輝は両手を上げ、ゆっくりと言葉を選ぶ。「私たちは遠い国からの旅人です。黒曜石の矢について調べるために」


その言葉にサクヤの表情が変化する。「黒曜石の矢......その名を知っているとは」


彼女は部下たちに目配せし、武器を下げるよう指示を出した。


「不思議な装束に、空を漂う青い光。そして」彼女は火焔の鏡を見つめる。「その鏡は、伊勢いせの聖域のもの」


詩織が驚きの声を上げる。「どうしてそれを?」


「我らは代々、東の海から訪れる者たちの予言を守ってきた」サクヤは静かに答える。「その中に、お前たちの姿があった」


タカミンが青く光りながら興奮した様子で舞い上がる。「すごい!予言の内容と現実の一致率98%!これは偶然じゃないよ!」


▢▢▢ 日高見国の秘密 ▢▢▢


サクヤの案内で、彼らは隠された山道を通って集落へと向かった。そこで目にしたものは、教科書には載っていない、驚くべき光景だった。


整然と並ぶ建造物、精巧な水路システム、そして何より目を引いたのは、巨大な天体観測所のような建造物。


「信じられない」光輝が呟く。「これほどの文明が、この時代に」


タカミンが矢継ぎ早にデータを表示する。「建造物の技術レベルが現代の推測を大きく上回ってる!特にあの天体観測所、現代の望遠鏡に匹敵する精度を持つ可能性が!」


サクヤは二人を高台へと導いた。そこからは広大な日高見の国の全容が一望できた。


「我らの国は、星々の導きを受け継ぐ者たち」彼女は誇りを持って語る。「黒曜石の矢は、その力の象徴」


しかし、その瞬間、遠くの空に不吉な雲が広がり始めた。


タカミンの姿が激しく明滅する。「警告!異常な気象変動を検知!これは......」


▢▢▢ 次回予告 ▢▢▢


謎に包まれた日高見国の真実。

黒曜石の矢に秘められた力。

そして、突如として現れた異変の正体とは――


次回、「常世の森・中編」、運命の岐路が光輝たちを待ち受ける!

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