第2篇: 太陽の国(後編)

▢▢▢ 祭りの幕開け ▢▢▢


第2篇: 太陽の国(後編)



▢▢▢ 祭りの幕開け ▢▢▢



夜明けの空がくれないに染まる頃、伊勢いせやしろ神楽かぐらの音が響き渡った。白木の鳥居とりいをくぐると、玉砂利たまじゃりを敷き詰めた参道には既に多くの参拝者が集っている。空気は緊張と期待に満ちていた。


白羽しらはの矢が天空に放たれ、太陽祭の幕が開く。あけに染まった社殿しゃでんの前で、白装束の巫女みこたちが厳かに舞を奉納していく。風に揺れる長い黒髪、優美な足取りは、まるで天女てんにょの舞のようだった。


火焔かえんの鏡は、金糸きんしで縫い取られた緋色ひいろの布に包まれ、ひのき造りの祭壇に安置されていた。その周りでは、若い巫女たちがすずを鳴らしながら、円を描くように立ち並ぶ。


ヒビキが詩織しおりの袖を優しく引いた。


「ご覧ください。私も来年は、あの中で舞うことになるの。でも……少し不安で」


詩織は思わずヒビキの手を握った。


「大丈夫よ。あなたなら、きっと素晴らしい舞姫まいひめになれる」


光輝こうきは神妙な面持ちで社殿を見上げる。


「この場所には、確かな力が宿っている」


タカミンが青く輝きながら応える。


「うん!すごい波動だよ。鏡と神域しんいきが共鳴してる!それに……」


タカミンは一瞬黙り込み、慎重に続けた。


「この波動、どこか懐かしい感じがするんだ」



▢▢▢ 迫りくる影 ▢▢▢



夕闇が迫る頃、突如として風が変わった。タカミンの姿が青く明滅めいめつする。


「異常検知!複数の侵入者、特殊な装備を携帯!これ、現代のものじゃないよ!」


社殿の影から、黒装束くろしょうぞくの者たちが姿を現す。薄暗く光る刃を携え、般若はんにゃ面のような仮面の下から、首領しゅりょうの声が響いた。


「抵抗はよせ。我ら『八咫やたしゅう』に、その鏡を渡すのだ」


首領は一歩前に進み、威圧的な声を続ける。


「我らこそが、その力を正しく扱える者なのだから」


詩織はヒビキの前に立ちはだかった。


「この子の大切な祭りを、誰にも邪魔はさせない!」


タカミンが急いで状況を分析する。


「敵の数、十五!円陣を組んで接近中!」


その青い光が激しく明滅する。


「彼らの装備から、古代のテクノロジーの波長を検出。要注意だよ!」



▢▢▢ 火焔の鏡の真力 ▢▢▢



戦いは苛烈かれつを極めた。黒装束の者たちは霧のように姿を消しては現れ、神聖な場をけがそうとする。


タカミンの警告が次々と飛ぶ。


「光輝!右側!」


「詩織さん、後ろ!」


「三人、背中合わせに!敵の動きが変わった!」


光輝は羅針盤を掲げ、敵の動きを封じていく。詩織の放つ護符ごふが、闇に光の壁を作る。それでも、八咫の衆は執拗しつように攻めたてる。


その時、ヒビキが祭壇の前に立った。幼さを感じさせない、一人の巫女としての威厳が漂う。


「お願い、火焔の鏡よ」


ヒビキの清らかな声が響く。


「私たちに力を……!」


詩織は咄嗟とっさにヒビキの隣に立ち、光輝は羅針盤を高く掲げる。


三つの想いが重なった瞬間、驚異的な現象が起きた。火焔の鏡から放たれた光が虹のように七色に分かれ、境内の空を覆う。


タカミンが歓声を上げる。


「エネルギー共鳴率が急上昇!鏡と羅針盤が完全同調!そこにヒビキの祈りも重なってる!」


まばゆい光が境内全体を包み込む。黒装束の者たちは、まるで浄化されるかのように、その場にひざまずいた。


首領が仮面を外し、若い男の素顔を見せる。


「なんという…清浄なる力」


彼の目には、悔恨の涙が光っていた。


「我らの求めていたものは、この清らかさだったのか」



▢▢▢ 明かされる秘密 ▢▢▢



戦いの後、夕陽が沈みゆく社殿に静寂が戻った。火焔の鏡の表面に、不思議な文様が浮かび上がる。


タカミンが興奮した声を上げる。


「古代の星図だ!羅針盤の模様と完全に一致する!これは…次の目的地を示してるんだよ!」


ヒビキが古い言い伝えを口にする。


「日の出ずる国の東、常世とこよの国への道標みちしるべ…」


光輝は鏡の表面に映る模様をじっと見つめた。そこには、はるか東の海を越えた場所、日高見ひたかみの国への道筋が示されていた。


「その先には」


ヒビキの声が静かに続く。


「もっと大きな力が眠っているの。だからこそ、あなたたちに託したい」



▢▢▢ 新たな旅立ち ▢▢▢



祭りの終わりを告げる鐘の音が、夕暮れの空に響く。


ヒビキは光輝たちに、木箱に納められた小さな鏡を差し出した。


「これは火焔の鏡の分身ぶんしん。本体の半分の力しかないけれど、きっとあなたたちの力になるはず」


「ヒビキ…」


詩織の目に涙が光る。


「泣かないで」


ヒビキは微笑んだ。


「私たち、必ずまた会えるから。その時は私、立派な巫女になってるわ」


「約束よ」


詩織は強くうなずいた。


光輝は分身の鏡を受け取りながら、深く頭を下げる。


「ありがとう。必ず、戻ってきます」


村人たちも集まり、光輝たちの旅の安全を祈願する即席のまつりが執り行われた。


タカミンが新たな星図のデータを解析しながら、嬉しそうに告げる。


「次の目的地、日高見の国!きっと、もっとすごい発見があるはず!」


夕陽が沈みゆく中、光輝たちは新たな冒険へと歩み出した。



▢▢▢ 次回予告 ▢▢▢



遥かなる日高見の国へ——

古の戦士たちが守り継いだ秘宝の謎に迫る。

光輝たちの旅は、新たな歴史の扉を開く。


次回、第3篇「常世の森」開幕!

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