男か女か確かめてみろよ
「え、お前オレのこと、男だと思ってん?オレ、女だよ?」
唐突に始まった、男だと思っていたら女だった友達の展開。言葉をすんなりとは飲み込めぬまま、友達をじっと見て少し考える。
言われてみれば確かに、女性であると納得できる中性的な顔立ちと声。いつも自分と同じ様な服装ではあったが、ジェンダーレスのファッションの範疇でもある。男だと思っていた友達が女であるという言葉を、頭の中で違和感なく理解できてしまう。
だが、自分は否定しなければならないのだと、ハッとする。なぜならば、コイツが女ならば今までの自分はご時世的にヤバ過ぎるし、想いが行きどころをなくしてしまうから。
周りに人がいても気にしなかった、過度な下ネタ、ボディタッチの応酬。向こうからしてきたことに応えることが大半ではあったが、男友達であっても過剰なコミニケーションだった。異性にコレをやっていたとなれば、ヤバ過ぎる。思い返してみると、周囲から引かれていると感じることも少なくはなかった。嬉々として付き合ってるの?と囃し立てられることもあったが、こんな奴と付き合う訳ないだろと、照れ隠しではなく本心で真顔のまま自分は返していた。男だと思っていたのだから当然ではあるが、周りから見れば自分は、下ネタ投げ掛けくっついて身体弄る女性に対して、付き合わないと一蹴するヤバい男である。冷や汗が止まらない。
待て待て待て。そもそも、女性であるならば、なんでコイツは過剰なコミニケーションをしてきた?毎日の様にハグしてきたが、男と女の友達関係であれば異常である。男同士ならば許されていたが、赤裸々に暴露する下ネタもおかしいだろう。多分、友達は男なのだ。揶揄うつもりで、女であると冗談を言っただけ。安心してホッと胸を撫で下ろし、女ならなんでくっついてきてたんだよ?と、ニヤリとしながら核心をつく。
「いや、顔と身体がどタイプだったし。めちゃ好き。超好き。狙ってたんだよね〜。手ぇ出してこないなってヘタレ過ぎてムカついてたけど、オレのこと男だと思ってたんなら納得だわ」
飄々と言われる。そうだよ、コイツはこういう奴だった。好意を隠そうともせず、好きだという気持ちを溢れさせた言葉と態度で、いつもくっついてきた。だから、倒錯させられた。
最早自分は、男でもいいと思ってしまっていた。真っ直ぐな好意をぶつけられ続けて、心と身体が応えていた。まだ踏ん切りはつかなかったとはいえ、葛藤の段階は既に終え、男のコイツを好きになっていた。男友達に、恋をしていたのだ。
だから、困る。というか、どうすればいいか分からない。女性が好きだったが、魅力的な男友達に倒錯して恋をした。自分は男性が好きであると、覚悟を決めた。それなのに、女性だった。想いの行き所がなくなり、事実だったとしても否定することしかできない。ただただ、いやお前は男だろと、言い続ける。
「なら、男か女か確かめてみろよ。見る?触る?ナニしてもい〜から、好きにしろ」
怒りを感じさせる、不機嫌な声色。余りにも否定し続ける自分に、嫌気がさしたのだろう。しかし自分は、友達が怒っているということよりも、言葉に心臓が高鳴る。
隅々まで、見てもいいのか?念入りに、触っていいのか?ナニしてもいい?どこまで?男と女のどちらの身体に興味があるのかも分からぬまま、火照りながら生唾を飲み込む。
いやいやいや、ダメだ。これは、売り言葉に買い言葉に過ぎないだろう。本気ではない筈。それに、自分がナニかしてしまえば、友情が壊れてしまう。そんなことは、コイツも望んでいないだろう。目を逸らして、荒くなりつつあった呼吸を整えて、落ち着こうと努力する。「ふ〜ん…♡」という嬉しそうな声を、聞こえないフリをする。
「…別に、友達のままヤったらい〜だろ♡てか、新しい関係になっても、オレはい〜んだけどな〜♡」
艶っぽい声色で囁く、男友達改め女友達。いつの間にか近づかれており、メス全開の熱気が伝わってくる。必死に謝り身を離すと、「いいよ♡今日は、許してあげる♡」とニヤつく女友達。ニヒルな男の様でもあり、妖艶な女の様でもあるその魅惑に、更に身も心も倒錯していくと感じて、身震いする。
その日から、関係が変わることはなかった。過剰なコミニケーションもそのままでwり、自分は周囲を気にして狼狽続ける。現状維持であるならば、それが一番いいのかもしれない。そう思っていたのだが、女友達の些細な変化に気付いてしまった。
メリハリをつけている。本来の性別通りに、女性の柔らかな魅力で可愛らしく、甘えしなだれかかってくることが多くなった。かと思えば、男性的な力強さでカッコよく、ギュッと抱きしめられて頭を撫でられることもある。同一人物に、毎日それをされる。揶揄うことに楽しみを見出したのだと伝わってくる、ニヤニヤ笑いで…。
もちろん、好意を隠そうともしない。むしろ愛情を注がれていると感じる程に肥大化しており、男女の魅力に誘われながら、好きだと言葉と態度で真っ直ぐに示される。自分が望めばすぐさまに受け入れてくれる状況で誘惑され続けて、ゆっくりと理性の糸を切られていく友達関係の話。
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ちょっとエッチな短編集 ハジメタイチ @hajimetaichi
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