おままごとの夢

「いや、アタシの夢は決まってるし…。ちっちゃい頃、言ったじゃん。覚えてないの?さいて〜」


幼馴染に進路の話題を振ったら、昔に思い描いた将来の夢の話しをされ、じ〜っとジト目で睨まれた。思い出せという、無言の圧力。そもそも進路の話であって夢を聞いたということでもないのだが、ツッコミを入れると面倒なことになることは知っているので、素直に幼馴染の夢について考える。しかし明確な事象を思い出せず、悩んでいると幼馴染が助け舟を出してくれた。


「ほら、おままごといっぱいやったじゃん。嬉しそうだったでしょ?アタシ。あれが、アタシの、夢だったってことで…」


顔を赤面させながら、恥ずかしそうに声が消えていく幼馴染。いや直接夢って言った訳じゃないのかよと思いつつ、何を恥ずかしがっているのかも分からぬまま、あのおままごとが幼馴染の夢なのかと改めて思い返す。

自分が夫役で、帰宅する。幼馴染が妻役で、ご飯を用意して待っている。結婚した二人の、日常的な食卓。たまに参加者が増えることもあったので、互いにパパママと呼び合い、子どももいる設定。おままごとといえばで想起できる、ごく普通でありふれたおままごと。そういうことかと思い至り、こちらも恥ずかしくなる。今、告白されているのかもしれない。幼馴染は、自分と結婚することが夢だと、言っているのだ。

しんと静かになる部屋。告白の返事を期待されているかもしれないと感じつつも、勘違いかもしれないとも思えて正解の言葉が浮かばない。幼馴染はこちらの返事を待っているのか、同じく無言。素直に告白されれば、イエスと言うだけ。幼馴染のことは、異性として好きである。だがこの状況では、間違うことを恐れて口をつぐんでしまう。無言の時間は続き、気まずくなってくる。

耐えきれず、とりあえず無難に、結婚するのが夢だったんだ?夢はお嫁さんとか?と聞いてみる。自分が相手であることはぼかして、夢の話題を続ける。すると幼馴染からは、少し想像と違う答えが返ってきた。肯定だけされると思っていたが、「あ〜…。それも、道筋ではあるんだけど…」と、不明瞭なことを言い口籠る。そして、目をしっかり合わせて、微笑みながら言われた。


「アンタがパパになるんだよ…♡」


無意識に、生唾を飲み込む。幼馴染に気圧され、緊張したからだ。

妖しく艶やかな微笑み。据わった目で、真っ直ぐに鋭い視線を注がれる。今で聞いたことのない、低い声色。上記した頬。漏れる熱い吐息。蠱惑的でありつつも、本能的な恐怖を感じさせられる色気。圧倒されて、息を呑む。

愛想笑いをしながら、話題を変えることしかできない。このまま進行してしまえば、自分の知らない幼馴染に、獲物として食べられる被捕食者となる予感があった。自分は、幼馴染の凄みに、メスの迫力に怯えていた。疑問に思いつつも、言われた言葉を聞き返すことはできなかった。

だがしかし、この先に何度も何度も、同様の言葉を聞かされることになる。押し倒され、ねじ伏せられ、見下ろされながら聞き返せなかった言葉を聞かされ続ける。その願望滲ませる言葉と共に、欲望を無理やりに叶える行為で夢を理解させられる話。

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