街中サキュバス魅了

「すいませ〜ん。申し訳ないんですけど、少しお話し聞いてもらえませんか?ほんっと、お時間取らせないんでっ!」


街で声をかけられ振り返ると、凄まじい美女が立っていた。こんな美女が不釣り合いな自分に声をかけたということは、よからぬ事に巻き込まれるかもしれないと警戒する。だが同時に、逆ナンかもしれないと期待してしまう。なぜなら美女は、ツノと尻尾が目立つサキュバスだったから。


「お腹減り過ぎで、クラっときちゃって…。よかったら、少しだけ精気もらえないでしょうか?あ、ほんとにちょ〜っとだけなんで、心配しないでください」


やはり、キタ。サキュバスからの、食事の誘い。バツが悪そうにしているサキュバスに向けて、コクコクと何度も頷く。こんな美女との関係なんて、むしろこちらからお願いしたいところだ。自分の必死さにサキュバスはキョトンと目を丸くしていたが、あははと明るく笑い、「ありがとうございます♡じゃあ、お願いしますね♡」と可愛らしい笑顔で言われた。目鼻立ちが整った彫りの深い顔立ちから、外見だけの印象はクールな絶世の美女。しかしながら、話してみると意外と気さくで声も可愛らしく、にっこりと笑ってくれるお姉さん。どんどん心を奪われていき、これが魅了かと内心で納得する。


「サクッとやっちゃいますね♡あ、移動しなくてもだいじょぶです♡ここで、お願いできますか?♡もう、大急ぎでやっちゃいますんで〜♡」


この場、周囲に人がいる街中で始める気なのかと驚く。サキュバスってとんでもねぇなと思いつつも、刺激的な提案への焦りを隠しながら平静を装って了承する。これは物凄いことが始まってしまうと、ドキドキが止まらない。


「ありがと♡じゃ、はいっ♡手、貸してくださいっ♡」


遂に始まる、美女に喰われる衆人環視の行為。期待と興奮と少しの不安を感じながら、全てを任せようと身体の力を抜き、目を閉じる。どうぞ身体を使ってくださいと、火照りつつある全てを捧げた。

だが、時間が経っても、一向に始まらない。どうしたんだろうと思い、薄目を開けてサキュバスを見る。


「あ〜…。いえ、手を繋ぐだけで大丈夫ですよ〜?あはは、ごめんね?」


物凄い行為をされるのだと期待していた自分が、恥ずかしい。そりゃそうだ。いくらサキュバスであっても、こんな所でおっ始める筈がない。顔が熱くなりながら、サッと手をサキュバスに差し出す。


「あ、いやいやいや。そうだよね?サキュバスにお願いされたら、そういうことされるかもって思っちゃうよね?恥ずかしがらなくていいよ?私の誘い方が悪かったんだから。…えっと、じゃ、手繋ぐね…?」


気遣ってくれる優しさが、余計に恥ずかしい。サキュバスよりもがっついてしまったことを自覚して、自分のアホさ加減に自己嫌悪。家に帰ったら、絶対このことを思い出して一人反省会をするだろう。最早、羞恥心でサキュバスに対する期待が消え失せてしまった。

それなのに、萎えてしまった心と身体が反応する。手を繋がれているだけで、じわじわと滲み溢れてくる欲望を、確かに感じる。


「少しづつ、ゆっくり吸うから安心して?♡ちょっとだけ、喰べさせてね…?♡」


言葉通り、じんわりと身体中から湧き上がる火照りを、手からゆっくり吸われている感覚がする。それでも尽きることはなく、むしろ火照りが増していく。

更に、手の繋ぎ方に刺激され、火照りが加速する。指の間を、スリスリと。手のひらを、ツーっと。手の甲を、なでなで。つまむ、絡める、軽くつねる、甘える様にゆっくりと擦る。巧みに指を蠢かして弄ばれ、手を繋いでいるだけなのに、めちゃくちゃエロい行為に思えてしまう。それに加えてゆっくりと精気を喰われており、人生で味わう初めての快感に身震いしてしまう。


「はいっ♡終わりっ♡ありがとね〜♡喰べさせてもらって、身体元気出たよ〜♡」


手が、離れていく。もう、行為は終わりだ。しかしながら、身体は火照り続ける。もっともっと刺激が欲しくて、無防備な心を晒してしまう。どうしようもなく、求めてしまう。おねだりするように、誘うように、とろんと蕩けた眼差しをサキュバスに向ける。


「…ダメよ?♡サキュバスに、そんな目したら…♡おいで?♡ちゃんと、喰べてあげる♡」


サキュバス然りとした、妖艶で尊大な態度に豹変する。そのギャップに萎縮するが、肩を抱かれて「返事、聞いてない♡いくよ?♡」と囁かれる。力では抵抗できず、いや身も心も抵抗する気も起きず、望むままサキュバスに持ち帰られる。

能力を使わぬまま、互いに魅了し合った人間とサキュバスの話。

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