秋の風は


 秋の風は、カマキリの匂いがする。

それと月とススキを混ぜたもの。

潰されたキリギリスの体液を近くで嗅いだような匂い。

 小川とも呼べないような小さな水の流れを追って、枯れ草を踏んで駆けた子供の頃。

遠くで車のトランクを開けている父。

母と、落ち行く気配を見せるオレンジの陽。


 秋の風は焼けたウィンナーの匂い。

どこかの家庭から漏れ出る照明の匂い。

それを尻目に、それぞれの家へと帰っていく。まだ、安全な家があった頃。


秋の風は、そんな記憶を思い出す匂い。

 

 来年は、ビールを飲みたくなる匂い、とでも言っているのだろうか。

そんな事を考える秋の風。


そんな匂い。

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