第11話 見えざる真実
「行きましょう。」
鳴海夕貴は廃工場の入り口に静かに足を踏み入れた。SUVが去った後の工場内は、不気味な静けさに包まれている。薄暗い空間には微かな埃の匂いが漂い、床には先ほどの騒動の痕跡が残っていた。
「足元に気をつけろ。」
橘が小声で言いながら、懐中電灯で周囲を照らす。倒れた男が横たわる場所には、まだ乾いていない血痕が広がっていた。
「彼は……もう助からないですね。」
鳴海は男の顔を見て一瞬目を伏せた。その表情には哀れみと困惑が混じっている。
「そうだな。だが、ここにあるのは死体だけじゃない。」
橘の視線は、工場内の他の部分に注がれていた。
鳴海が男のポケットを探ると、小さなメモが見つかった。そこにはいくつかの数字と、奇妙な記号が記されている。
「これは……暗号ですか?」
鳴海が橘に見せると、彼はしばらくそれを眺め、静かに頷いた。
「数字は銀行口座の可能性がある。だが、この記号……ただの飾りではなさそうだ。」
「記号?」
鳴海はじっとメモを見つめた。そこには白薔薇のような形の印が描かれていた。
「白薔薇……。」
鳴海の声がかすれた。
「これ、6年前の事件と関係してるんじゃないですか?」
橘は黙ったまま、メモを懐にしまいながら答えた。
「可能性は高い。だが、まだ断定はできない。この記号が何を意味するのか調べる必要がある。」
二人は工場内をさらに探索した。荷物を積み込んだ後の台車、破れた紙袋、そして床に散乱した書類――全てが手がかりになりそうだった。
「ここに……計画書の一部が残されています。」
鳴海が床から拾い上げたのは、再開発計画に関連する資料の一部だった。ただし、その中のいくつかは意図的に破かれた跡がある。
「破られた部分が本当に重要なところだな。」
橘はその紙を手に取り、破られた箇所を慎重に見つめた。
「だが、こっちには計画の概要が残っている。再開発の資金がどこに流れているか、大まかな方向が見える。」
「どこに流れているんですか?」
「……海外だ。」
橘の答えに、鳴海は目を見開いた。
「海外……再開発計画の資金を利用して、裏社会のルートに資金を送っている……?」
「その可能性が高い。奴らが運んでいた覚醒剤も、この資金の一部で動かしているはずだ。」
探索を続けている二人の耳に、不意に外からの足音が聞こえた。
「……誰か来た。」
橘がすぐに懐中電灯を消し、鳴海を壁際に押し付けた。
「奴らが戻ってきたんですか?」
鳴海が小声で尋ねると、橘は首を横に振った。
「いや、違う……足音が軽い。別の誰かだ。」
足音は工場内へと入ってきた。窓から差し込む微かな月明かりに浮かび上がったのは、一人の若い男だった。手にはスマートフォンを握りしめ、どこか怯えた様子で工場内を見回している。
「誰だ……?」
鳴海が囁く。男は何かを探しているようだった。そして、倒れた男の体に気づき、声を漏らした。
「……チクショウ、間に合わなかった……!」
「間に合わなかった……?」
鳴海はその言葉に反応し、顔を橘に向けた。
「様子を見よう。」
橘が冷静に言った。
男は倒れた男のポケットを探り始めた。しかし、先ほど鳴海がメモを取っていたため、何も見つけられない様子だった。
「おい、何をしている?」
橘がその瞬間、低い声で話しかけた。
「っ!」
男は驚き、スマートフォンを落としそうになりながら振り返った。
「……あんたたちは……誰だ!」
「警察だ。ここで何をしている?」
橘が静かに言い放つと、男はしばらく黙った後、ポツリと答えた。
「……あいつから頼まれてたんだ……連絡があった。でも、間に合わなかった……。」
「頼まれた?」
鳴海が一歩前に出ると、男は怯えたように一歩後ずさりした。
「俺はただ……ここに来るように言われただけなんだ。……それ以上は知らない。」
「本当に?」
橘の目が鋭く光った。
「嘘じゃない! 本当だ!」
男は叫ぶように答えた。
「でも、言われたんだ……あいつが『白薔薇を守れ』って……!」
鳴海と橘は新たな手がかりを掴む一方で、謎がさらに深まる。男が語る「白薔薇を守れ」という言葉は何を意味しているのか? そして、男をここに呼び出した人物の真意とは……。
選択肢: 読者への問いかけ
1.男を連れて警察署で尋問する
→ 男が語る「白薔薇を守れ」という言葉の真意を探る。
2.工場内のさらなる探索を優先する
→ 男の情報を保留し、工場内に残された証拠を徹底的に調査する。
次回予告
「次回: 白薔薇の影」
廃工場で発見された暗号と「白薔薇」という言葉――それらは6年前の事件と現代の再開発計画を繋ぐ糸なのか? 鳴海と橘は、新たな手がかりを追う中で黒幕の正体に一歩ずつ迫っていく。だが、その先にはさらなる危険が待ち受けていた。君の選択が、事件の進展を大きく左右する。
読者へのメッセージ
「読者の君へ――」
「白薔薇という言葉は、この事件の核心に深く関わっている。だが、その意味を解き明かすには、さらに一歩踏み込む必要がある。君の選択が、この物語の未来を決定する。慎重に、そして大胆に進んでほしい。」
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