第12話 白薔薇の記憶
「一緒に来てもらうぞ。」
橘が静かに言うと、若い男は怯えた表情で一歩後ずさりした。彼の手は震えており、その様子からただのチンピラや取引人ではないことが伝わる。
「待ってください、橘さん。この人、そこまで何かを隠しているようには見えません。」
鳴海夕貴が男をじっと見つめながら口を開く。その目には、相手を見透かすような鋭さと優しさが混じっていた。
「確かに何か知っているようだが、重要な駒かどうかは分からない。」
橘も一瞬考え込み、しばらくしてから言った。
「だが、君には協力してもらう必要がある。警察署で話すか、それともここで全てを明かすか、選べ。」
男はしばらく沈黙した後、震える声で口を開いた。
「……話します。ここで……でも、本当に何も知らないんです。ただ……。」
「『白薔薇を守れ』と言われた。それだけなんです。」
男の言葉は簡潔だったが、その声には恐怖と混乱が滲んでいた。
「誰に言われた?」
橘が冷静に尋ねると、男は怯えた様子で答えた。
「……名前は知らない。ただ、電話で……一週間前に突然かかってきて。」
「どんな声だった?」
「低い声で、はっきりしていて、威圧感があった。でも、それ以上は……。」
「他に何か言われなかったのか?」
橘がさらに詰め寄ると、男は苦しそうに思い出そうとするように目を閉じた。
「えっと……『計画を邪魔する者が現れる。お前は白薔薇を守る立場だ』……そう言われました。」
「白薔薇を守る……?」
鳴海が声に出して繰り返した。その言葉には、どこか6年前の未解決事件を彷彿とさせるものがあった。
「さっきの銃声について、何か知っているのか?」
橘が問いかけると、男はさらに怯えた様子を見せた。
「知らない……俺が来たときには、もうあの人が……あの人が倒れてたんだ。」
男は倒れている男の遺体を指さした。その手は小刻みに震えている。
「でも、あなたをここに呼び出した人物は、何か意図があってこの場所を選んだはずです。」
鳴海が鋭く言うと、男はさらに視線を彷徨わせた。
「……分からない。ただ、ここに来れば『真実が分かる』って言われたんだ。でも、俺には何も分からない……!」
「『真実が分かる』?」
橘の目が細くなった。その言葉には、何か隠された意図があるように感じられた。
男の話に区切りをつけた後、鳴海と橘は工場内の探索を再開することにした。男は入口付近で待たせることにし、二人はより奥へと足を進めた。
「橘さん、この工場、他に何か隠されている気がします。」
鳴海が呟くと、橘は小さく頷いた。
「確かに、これだけ広い場所にしては、証拠が散らばりすぎている。奴らも急いで去った割には、妙に整理された感じがある。」
「整理された感じ……。」
鳴海はその言葉を反芻しながら、周囲をじっくりと観察した。そして、床の一角に微かな傷跡を見つけた。
「ここ、何かがあります。」
鳴海が跪いて床を調べると、それは小さな金属板で覆われた隠しスペースのようだった。
「開けてみろ。」
橘が言うと、鳴海は工具を使って金属板を持ち上げた。その下には小さな箱が隠されていた。
箱の中には、いくつかの古い写真と、一枚の紙が入っていた。写真には、白薔薇の紋章を持つ何者かの姿が映し出されていた。
「これは……6年前の白薔薇事件の被害者たちじゃないですか?」
鳴海が写真を見て言った。
「間違いない。この箱は、6年前の事件と今回の事件を繋ぐ鍵だ。」
橘は静かに言った。その目には、長年追い続けてきた事件の記憶が蘇っているような光が宿っていた。
「それに、この紙……。」
鳴海が箱の中から取り出した紙には、簡単な手書きの地図と一言だけが記されていた。
「真実の庭へ」
「真実の庭?」
鳴海が首を傾げると、橘は地図をじっと見つめながら言った。
「この場所を探せということだろう。だが、白薔薇の紋章がこれに関係しているのは明らかだ。」
選択肢
鳴海と橘が次に取るべき行動を選んでください。
選択肢によって物語の進展が変わります。
1.男を連れて「真実の庭」に向かう
→ 箱の中の地図を手がかりに、次なる目的地へと進む。
2.工場内をさらに調査し、隠された証拠を探す
→ 工場に残された他の痕跡を探し、全ての証拠を固める。
次回予告
「次回: 真実の庭」
白薔薇の紋章、6年前の事件との関連性、そして「真実の庭」へと繋がる新たな手がかり――。鳴海と橘は、過去と現在を結ぶ糸を解き明かし、事件の核心へと向かう。しかし、その道の先には予期せぬ危険とさらなる謎が待ち受けている。君の選択が、物語を動かす力となる。
読者へのメッセージ
「読者の君へ――」
「白薔薇の紋章、真実の庭への地図――それらは事件を繋ぐ重要なピースだ。だが、次に進むべき道は一つではない。君の選択が、鳴海と橘を次の真実へと導く。慎重に、そして大胆に進むべき道を選んでほしい。」
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