第3話 金の流れ
会議室の白い蛍光灯が、広げた書類の上に影を落としている。
鳴海は石田から受け取った茶封筒の中身を丁寧に並べ、ペンを手にした。資金計画書に記された数字の列が、どこか不気味に見える。
「三栄建設、不動産会社の匠エステート……。」
彼女は記録された名前を読み上げながら、指先でラインを引いていく。その背後から、橘の低い声が響いた。
「鳴海、それをただ読むだけじゃ進まない。」
振り返ると、橘が会議室のドアにもたれかかっていた。彼の手にはいつもの手帳が握られている。
「焦るな。数字の流れは嘘をつかない。どこかに必ず抜け落ちている点がある。」
「抜け落ちている点……?」
「例えば、不自然な名義や、明らかに動かないはずの金。それを見つけるんだ。」
鳴海は、再び書類に目を落とした。そして、一つの名前に目が止まった。
「『西田貴彦』……?」
「西田?」
橘が軽く眉をひそめ、鳴海の手元を覗き込む。
「再開発計画の中心にいる三栄建設の幹部だな。そいつの名義が記録にあるのか?」
「はい。この口座名義が、彼の名前と一致します。でも……これ、個人名義ですよね? 会社の資金がこんな形で個人に流れるなんて。」
橘は書類を手に取り、じっと見つめた。
「金を追えば、人間が見える。その動きが全てを語る。だが、この記録だけではまだ不十分だ。」
「不十分?」
鳴海はペンを止め、橘を見上げた。
「これがどこから来て、どこへ向かうのか。それを掴まなければならない。」
橘の目が、一瞬だけ鋭く光った。
さらに資料を読み込む鳴海の目に、別の名前が何度も現れるのに気づいた。
「匠エステート……。この会社、何度も出てきますね。」
鳴海がそう呟くと、橘は短く頷いた。
「再開発計画の実務を担当している中小企業だ。だが、ただの駒ではない可能性がある。」
「駒……?」
「金の流れに名を残すということは、何かしらの役割を果たしている。表向きには中小企業かもしれないが、その実態は別の顔を持っているかもしれない。」
鳴海は手にした資料を抱え、椅子から立ち上がった。
「調べに行きましょう。この会社に直接話を聞けば、何かわかるかもしれません。」
橘はしばらく沈黙した後、鳴海の目をじっと見つめた。
「行動力はいいが、慎重になれ。金の話に触れると、相手も敏感に反応する。」
「わかっています。でも……。」
鳴海は書類を握りしめたまま言葉を続けた。
「美月さんが見ていたものを知りたいんです。」
橘はそれ以上何も言わず、小さく頷いた。
「なら、進め。」
匠エステートのオフィスは、再開発予定地から少し離れた場所にある古びたビルの一室に構えていた。
ビルの外壁はひび割れ、看板の文字もところどころ剥げている。
「ここが……?」
鳴海は建物を見上げながら呟いた。
「意外に地味だろう。」
橘が無表情で歩き出し、扉を押した。
中に入ると、狭いオフィスには古い机と資料棚が並び、数人の社員がパソコンに向かって作業をしていた。
鳴海はその光景に目を向けながら、小さくため息をついた。
「とても大規模な再開発を担当しているとは思えませんね。」
「だからこそ怪しい。」
橘が短く返すと、奥から一人の男性が現れた。
「警察……ですか?」
現れたのは営業部長を名乗る中年の男性、藤原だった。
「少しお話を伺いたいのですが。」
鳴海が柔らかい笑顔で切り出すと、藤原は少し眉間に皺を寄せた。
「何のご用でしょう?」
「再開発計画に関して、いくつか確認したいことがあります。」
鳴海がそう切り出すと、藤原は曖昧な笑顔を浮かべた。
「当社はただの下請けです。大きな決定には関与しておりませんので。」
「ですが、この資金の流れを見る限り、匠エステートが関与していると考えられる記録があります。」
鳴海が資料を差し出すと、藤原の笑顔が一瞬凍りついた。しかし、すぐに表情を整え、答えた。
「失礼ですが、その記録が正しいものかどうか、私にはわかりません。いずれにせよ、私どもが動かしているのは合法な資金です。」
「本当に?」
橘が静かに口を開く。彼の目は藤原を鋭く射抜いていた。
「もちろんです。何か疑念を抱かれているようですが、当社に違法行為はありません。」
「なら、資金の流れを一つひとつ確認させてもらう必要がある。」
橘の声には冷たさが滲んでいた。
藤原は困惑した様子を見せながらも、頑なに言葉を繰り返した。
「残念ですが、お話しできることは何もありません。」
オフィスを後にした鳴海と橘は、ビルの前で立ち止まった。
「どう思いますか?」
鳴海が問いかけると、橘は短く答えた。
「隠している。」
「それにしても……怪しいですね。」
鳴海がビルを振り返った瞬間、彼女は背後に誰かの視線を感じた。
振り返ると、遠くに一人の男性が立っていた。傘を差したその男は、じっとこちらを見つめている。
「……あの人……。」
鳴海がつぶやいた瞬間、その男は裏路地へと消えていった。
「追いますか?」
鳴海の言葉に、橘は少し考え込んだ後、小さく首を振った。
「今はまだ早い。だが、注意を怠るな。」
鳴海は不安な胸騒ぎを抱えながら、その場を後にした。
鳴海が次に取るべき行動を選んでください。
選択肢によって物語の進展が変わります。
1.再開発予定地で直接調査を進める
→ 匠エステートや関係者が動いている現場を訪れ、不正や隠された事実を探る。
2.資金の出どころを徹底的に分析する
→ 匠エステートと三栄建設の関係を深掘りし、金の動きから不正を暴く。
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あなたの選択が、鳴海を導き、物語の行方を決定します。
橘から読者へのメッセージ
「読者の君へ――」
「金は、人の意志を映し出す鏡だ。だが、その裏に潜む影を見るのは簡単じゃない。
鳴海がどこへ進むべきか、君が決めるときだ。再開発の現場に潜む真実を探るか、金の流れを追い詰めるか……君の選択に期待している。」
会話と情景描写を増やし、緊張感とリアリティを持たせました。さらに調整が必要な場合はお知らせください!
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