第6話 たのしそうで、なにより
「じゃ、梶本さんは背景の森の製作のほうをおねがいね」
「ああ、うん」
今日のホームルームはいつになく騒がしい。いつもは教室の隅っこで、隠れて生活するみたいにしている私や結衣も、みんなの会話の輪に呼ばれて、何かしらの役割を与えられるのを待っていた。
「結衣は何って言われたの?」
「ん?私はドア作って欲しいってさ。でも意外と簡単らしいから、終わったらそっち手伝うよ」
ありがと。
私がお礼を言うと、じゃっと短い挨拶をして、結衣はドア担当に割り当てられた小道具係のメンバーの子達の方へと駆けて行った。わたしも行かなくちゃ。
「梶本さんのおうちって、あのコンビニのある交差点の向かいとこだよね。この前妹ちゃん?ぽい子と一緒にいるの見たよ」
「え、そうなの?あのお庭付きのお屋敷みたいなところだよね?」
背景を担当する子達の集まりに行くと、開口一番にそう話しかけられた。彼女たちの言うことに間違いはないけれど、お屋敷というのは言い過ぎだ。確かに広くはあるけれど、がらんどうのお部屋ばかりで、見慣れてしまった今、それは面白くもなんともなかった。
「お屋敷は言い過ぎだよ。あ、でも庭は結構もりもりしてて、背景の参考になるかも」
「ほんと?たすかるー」
話しかけてくれた子が歓喜の声を上げて、他の子達も彼女の意見に大いに賛同する。小規模な木々の集合体のことを、ついもりもりしてるとか見栄を張ってしまったことを、少し後悔した。でも、町の中央ほど栄えてはいないけれど、別段田舎らしい風情もないこの辺りで、森っぽいところと言ったら、案外家の庭が一番それらしいのかもしれない。そう思い直した。
「どうですか?順調そう?」
ぱたぱたと私たちの集まってるいるところに、羽畑さんが一人、駆け寄ってきて加わった。蒸してしまうからだろうか、今日は長い黒髪をひとまとめにして、高い位置で留めている。私は髪はやっと顎に届くかどうかくらいまでで短くしているから、髪の長い子の苦労はよく分からない。
「順調!順調!なんていったって、美術部の梶本さんがいるんだから、百人力だよ!」
女の子が一人、私のことを針小棒大に、そんな風に語ってみせた。どう考えても、美術部という肩書を妄信しすぎだ。絵の下手な美術部員だって当然いるし、私も、自分よりも上手い人に何人も心当たりがある。
「ああ、そうだった!梶本さん、絵上手だもんね。また今度、新しいの書けたら放課後に見せてよ」
「うん、それはもうぜひ」
「おーい、ちよ!ちょっとこっち来て!」
「あ、ごめん。呼ばれちゃったから行くね。頑張って!」
ただでさえ人気者な上に、梶本さんはクラスの文化祭実行委員長に選ばれてしまった。だから、最近はずっと忙しそうにしていて、放課後に遊んだりする機会はうんと減った。こういう風にして学校でお喋りするのはとても貴重なことだったのに、ろくな話もできないままに終えてしまったことが悔やまれる。
どうしようか?みんな次の休みは集まれそう?
精力的に相談を始める彼女たちの会話に加わるのもそこそこに、いつも一緒の子達と楽しそうに笑う羽畑さんをただ見ていた。
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