第4話 三冊目

 三冊目。本と言うよりも、確かにその本自体は好きだけれども、その一編。宮沢賢治「永訣の朝」。これも高校の授業だった。そう考えると国語の教科書ってよくできているのかもしれない。閑話休題。岩手の方言は知れない。けれど、声に出して読みたくなる。妹の声、兄の声。絞り出す声と言えば確かにそうなのだろう。しかし、その絞り出した声は胸の奥の、腹の奥の、心の声だ。独り言の嘆きではない。語り掛けるあなたと通じ合うための共通語。臨終の際に至るまでの兄と妹との時空間でしか分かり合えない共感。人と人とはこういうコミュニケーションもあるんだ。一種の理想かもしれないが、どこか肩ぐるしい感じもする。かといって私は弟妹とどうだったろう。今更労ってみたとて、「気色悪い」とか言われそうだし。そうか、こういうことか。ぶっきらぼうにしていたとて、優しくしたとて、それ自体が私と弟妹との時空間なんだ。労って「気色悪い」と言われたという情報が刻み込まれていくんだ。そうしていって時空間の密度が上がって行く。むず痒い。一方で弟妹が私のことをどう思っているかなんてことが気にかかって来たり。

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