第3話 二冊目

 二冊目。太宰治「走れメロス」。太宰の作品と一緒にとは思いもしなくて、私自身驚いている。好きな五冊を選んでいる時に確かに「人間失格」や「富嶽百景」なんかも指さした。選びはしなかった。これを読んだのは、中学校の国語の授業だったかな。なんか小難しい漢字がいくつか出て来たけれど、主人公のキャラの濃さというか、濃いのに不憫ていうか、墓穴を掘っていると言うか、純朴と言うか、端的に言って阿呆なのだが、それが人間らしくて気に入ったのかもしれない。徹頭徹尾、勇者は勇者、聖者は聖者、天使は天使、悪魔は悪魔みたいな文章ばかりが提示されていた気がする。そんな中で出会った。尿を漏らす勇者がいてもいいじゃないか、泥酔が止められない聖者がいてもいいじゃないか、舌打ちする天使がいてもいいじゃないか、平和を願う悪魔がいてもいいじゃないか。どうも納得できない業務処理がある。業務命令がある。人事がある。腹が立つ。胃が痛む。冷静にあくまで冷静に意見を申し上げても一蹴される。部下をなだめる。同僚には無言で肩を軽く叩かれる。私はたぶん走れない。けれど、歩きを止めることはしたくない。

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