信念に従った怪盗2

 探偵あいつは実力差に苦しみつつも辛うじて生き残っている。だが、殺されるのも時間の問題だろう。


 他の宿泊客は突然の凶行に呆けてしまっている。この分では俺以外が動くことはないだろう。必然的にこの場面で探偵あいつを助けることが出来るのは俺だけ、か。


 探偵あいつの目の前で実力を見せるということは正体が露見する事にほかならないが四の五の言ってられる状況でも無いな。


 後日この選択を愚かと嘲笑うことになるかもしれない。だが、それでも、後悔をしたくない。なら俺が選び取る選択肢は.......


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 痛みが来ない...??

 そんな不可解な状況を理解すべく閉じていた瞳を開く。

 視界の大部分が何者かの背中で占められている。この服はたしか大台さんが着ていた....




 まさか庇ったの!?


「大台さん!! 何をしてるんですか!?」


 私を庇うなんてなんと馬鹿なことをしたんだ。

そんな私の心配は犯人の持つナイフと共に吹き飛ばされることになった。


 っていうかなにこの人大台さん強すぎるでしょ?! それにこの動き、見覚えが....


 「よう、探偵。助けに入るのが遅れて悪かったな。だが、安心すると良い。俺はヤツよりも強いからな。とりあえず制圧するから待っててくれ。」


 声と言動からもそうだとしか思えない。この人、怪盗じゃない!? 何でこんな場所にあいつが....


 そう思考してる内にあっという間に犯人を制圧した怪盗がこちらに振り返った。


 「さて、まずは一つ詫びようと思う。お前が傷つけられるまで加勢することを躊躇ってしまった。本当にすまないね。」


 伸びた犯人の上で優雅に腰を据えた怪盗が場違いな美声をもって謝意を述べる。


 先ほどまで全く目にも留めていなかったこの悪のカリスマは今や圧倒的なまでのオーラを放ち、周囲を威圧している。私はコレに気づかなかったというのか!?


 「おいおい、呆けるなよ。いついかなる時も冷静沈着に、だろ??」


 そうだ、今はコイツの対処が先だ。驚くのはあとでも出来るんだから。


 「ああ、いや悪いわね。ほんのちょっぴり呆気にとられていただけよ、怪盗。それとも大台さんと呼んだほうが良いのかな??」


 「どちらでも。とりあえず救急車を呼ぼうか。その傷、浅くはないだろう??」


 「まあね、でも、お前と対峙できた数少ない機会だからね。そんな分かりやすい誘導には乗ってやらないわ。」


 「だよなあ。お前、俺を捕まえるためなら死んでも良いとか言い出しそうだ。だが、そのままでは本当に死ぬぞ??」


 「それはいただけないわ。とはいえ、ここから引き下がるのもナンセンスね。治療後にもう一度機会を貰いたい所だけど。」


 「そんなことは無理だと分かっているだろう?? 推測だが、お前は俺を逮捕してから病院へと向かうつもりだろう。しかし、その出血量ではそれほど長くは保たん。ならば俺を諦めるべきじゃないか??」


 「....平行線ね」


 「だな」


 沈黙が場を支配する。やはり、怪盗は行動を決めかねているように感じる。想定外の状況なのはお互い様という訳だ。


 とはいえ、タイムリミットが迫っている。それが警察の到着か私の気絶かはわからないが。とにかくこれは今聞いておかないとこの胸のつっかえが取れないと直感が言っている気がした。


 そして私はすべての順序を無視し疑問を解決するための言葉を発した。


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 「これだけは教えてちょうだい。あなたはどうして私を助けたの??」


 沈黙を切り裂いたその言葉には緊張が乗っていた。まあ、疑われるわな。そらそうだ。俺だって探偵あいつが俺を助けたら訝しむことは間違いない。


 「人が目の前で死ぬなんて寝覚めが悪いだろう?? 見捨てたとか思いたくないしな。要は俺が後悔したくなかったからだな」


 偽る必要がないので真実を告げる。だが、俺は全国指名手配の身。普通は素性を明かす行為など愚行も愚行。もしかしたら深読みして空回ってくれるかもしれん。それに期待しつつも反応を待っているとパトカーのサイレンが聞こえてくる。


 「あれま、タイムリミットだな。では、探偵さん。いつかまたお会いしましょう。あと、命は大事にしてくださいね。あなたがいないと張り合いがありませんから。」


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 芝居がかった口調で文句を言った怪盗は、次の瞬間にはもういなくなっていた。


 血を流しすぎて意識が朦朧としている中私の中には一つの決意が芽生えていた。


 『怪盗を必ず捕まえてやる』

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書きたいシチュエーション、練習用短編 金食い虫 @16bdtf

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