信念に従った怪盗1

 ボクの目の前の男が刃物を手に持ち、迫る。

 探偵業をやっている以上、逆恨みをされることは想定していたし身体の小さなボクでも悪意に抗えるようにと合気道を修めてはいるが、それでも抗いきれない実力を持つ者だって当然存在している。そして、今、ボクに悪意を向けている人物がその該当者だってわけだ。


 今、持てるもので刃物を防げそうなものはないね。それに、躱すのも難しそうだ。良くて致命傷かな。


 こんなことなら護衛を雇えば良かったかな。

 まあ、突発的な殺人事件だったから、犯人の特定は容易かったけど、推理前に護衛を雇うそんなことをする暇もなかったか。


 迫りくるナイフを右腕で受ける。とてつもなく痛いが致命傷は避けた。だが、お前は何で2本目持ってんだよ!?


 そもそも何でこいつはこんな分かりやすいアリバイ工作でバレないなんて思ったんだよ。たんていが居ることは認識してたろ!? それでバレたから殺しますだなんて溜まったもんじゃない。


 ああ、思考がまとまらない。目の前にナイフが迫っているというのに動き出すことさえ出来ない。そもそも、さっきだって右腕で防げたのは奇跡に近い。そして、こいつはその経験から腕で防がれないように考えてナイフを振るうだろう。ならどう防げば良い!?


 駄目だ。無理だ。防ぐことは出来ない。


 ああないふがめのまえに


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 殺人事件が起こった。だが、慌てることもない。

何と言ってもこの場には探偵あいつがいる。俺自身、探偵あいつには何度苦汁を舐めさせられたことか。それゆえにこんな稚拙な工作で誤魔化しきれるものではないだろうと感覚で分かる。


 というか、なんでこんな小旅行の先で探偵あいつと遭遇するんだよ。盗みを働くつもりもないため、それほど警戒する必要はないが、懸念点があるというだけでおおいに邪魔になっている。まあ、とりあえず散策にでも行ってみますかね。



 そんなこんなで暇をつぶしていると宿泊客全員が大広間に集められた。ここまで早いとは思わなかったので少し面食らったが、暴かれるのが俺でない以上そう身構える必要もないため肩の力を抜いて推理を聞いた。


 ビシッと突きつけられた指の先にいる男は反論出来ないでいる。反論のしようのない推理に犯人がたじたじになっている。やはりあっさりと終わってしまうようだ。つまらない。




 男が纏う空気が変わった。オドオドした空気を醸し出していた男は突如探偵へ刺々しい殺意を飛ばしたかと思うと懐に忍ばせていたであろうサバイバルナイフで探偵あいつを切りつけた。

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