第3話

 巨人――エヴィを拾って一年が経った。

 この一年はあっという間だった。エヴィと過ごし始めてから、前よりもずっと時の流れが速くなった。

 彼女は物覚えがよく、すぐに言葉を覚えた。

 エヴィを家へと連れて帰った日、祖母は何も言わず彼女をあっさりと受け入れた。

 巨人との共同生活がいきなり始まることに反対するかと思いきや、祖母は真逆だった。エヴィの為に、魔法で家を改築した。天井は前よりも数倍高くなり、エヴィのための大きな部屋も用意された。

 ……あの時の祖母の魔法はいつ思い出しても凄い。

 僕も魔法を使えるが、祖母には百年経っても敵う気がしない。他の魔女を知らないが、祖母よりも優秀な人はいないのではないかと思う。

 エヴィは自分の家が、そして自分の部屋が与えられたことに、泣きそうな表情を僕らに向けた。

 祖母は「好きに過ごしなさい」と一言だけだった。

 その意味が分かったのかどうか分からないが、エヴィは深くお辞儀をした。とても長いお辞儀だった。

 僕は思わず、「もっと野蛮だと思っていた」と言葉にしてしまった。

 祖母は僕の発言を聞いていたのか、ハハッと鼻で笑った。そして、落ち着いた口調で「魔女も醜く悪いものだと言い伝えられているからのぅ」と呟いた。

 その時、僕は「噂は噂に過ぎない」と思ったのと同時に「魔女」という言葉に違和感を抱いた。

 この家は小さな木造の一軒家だが、多くの書物がある。

 その中で「魔女」という言葉しか見たことがなかった。……そう、魔法を使えるのは必ず「女」なのだ。

 僕は祖母をじっと見つめた。

 腰ぐらいまである白髪を三つ編みで一つにまとめており、背はかなり低い。若い頃はさぞ綺麗だったのだろうと思う顔だ。皺だらけの手に、柔らかな口調。

 どこからどう見ても、優しそうなおばあちゃん、だ。

 書物で学んだ「魔女っぽさ」はない。本の中の魔女は、鉤爪を持っており、顔はイボだらけ剛毛が生えているという。鼻は大きく、歯はない。…………容姿に対して良いことは何一つ書かれていなかった。

「これから、その目で真実を見なさい」

 祖母のその言葉に俺は「うん」と頷いた。

 ……それが、丁度一年ぐらい前の出来事だ。

 それから、僕の時間は見事にエヴィに奪われた。彼女に色々なことを教えた。もちろん、キノコ採取も教えた。教えた次の日に、ひと月分のキノコを両腕に抱えて戻って来た日は腹が痛くなるほど笑ったのを覚えている。

 何をやらしてもセンスがあり、エヴィはとても器用な子だった。

 キッチンが小さいせいで料理だけは教えなかったが、それ以外のことに関してはかなり優秀だった。

 運動神経に関しては僕は足元にも及ばなかった。知識のインプットの早さも目を瞠るものがあったが、それをしっかりと自分のものにしてアウトプットしてくるあたりに更に驚いた。

 ……その日々は今までとは比べものにならないほど充実しており、毎日が楽しかった。

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