第4話

 僕はエヴィに教えるべきことを教えた今、ようやく「魔女」に関して、もっと詳しく探ろうと思った。

 窓の外からエヴィの鼻歌が聞こえてくる。

 洗濯物を干しながら、彼女はいつも鼻歌を歌っている。どこか落ち着く心地いいメロディーだ。

 僕は椅子に座りながら、編み物をしている祖母に声をかけた。


「おばば」

「なんだい」


 祖母は編み物をする手を止めることなく、返答する。

 魔法で編み物をしたら楽なのに……。まぁ、祖母曰く、手を動かしているのが楽しいらしい。

 ボケ防止になるのなら、これからも沢山編み物をし続けてほしいものだ。


「男で魔法を使える人間っていないの?」


 その質問をずっと待っていたかのように祖母は「良い着眼点だ、だが気付くのが遅い」と言って、編み物をする手を止めて、僕の方へと視線を向けた。

 薄紫色の瞳に僕が移る。祖母のこの瞳の色は僕にも遺伝した。

 エヴィの赤い瞳を珍しいと思ったが、僕のこの瞳の色も珍しい方だろう。

 祖母との沈黙に僕の心臓の音は段々大きくなった。妙な緊張感が走る。


「魔法を使えるのは女だけだ」


 祖母のその言葉に僕は「え」と声を漏らす。

 薄々気付いてはいたが、まさか本当に魔法は女だけのものだったとは……。

 いや、待てよ……。


「ってことは、僕は女だっ」

「そんなわけあるか」


 僕の言葉に被せるように、祖母の強い口調が部屋に響く。

 …………確かにそうだよな。僕は生物学的に男だ。もちろん、中身も男だ。 


「突然変異としかいいようがない。お前もエヴィと同類だということだ」


 エヴィと一緒?


「どういうこと?」

「……女で巨人などいないのだよ」


 僕は思わずその場に固まってしまった。

 さっき入れたばっかりのココアだけは落とすまいとしっかり握ったまま、僕は祖母の言ったことを頭の中で処理する。

 巨人に男しかいないという情報など知らない。

 ……だが、バケモノ並みに生きている祖母がそう言うのならそうなのだろう。

 混乱する僕に祖母は続けて話す。


「出会うべくして出会ったのだろう」

「……つまり、僕もエヴィも本来はいてはいけない存在ってこと?」

「そう捉えることもできるが、『新たな可能性』とも考えることもできる」

 

 良いように言ったらそうなる。だが、実際は…………。

 

「大多数が僕やエヴィみたいな存在を『禁忌』だと思っている。だから、僕を人々から遠ざけて森で過ごしていたってことだろ?」

 

 祖母は何も言わない。

 それは肯定を意味指している。


「もしかして、父さんや母さんが殺されたのも……」


 僕のせいだ。

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