第6話

「お疲れ様で〜す。」



早いもので、もうバーの開店準備に取り掛かる時間になって。



トレンチコートを着こなしたヒナタが出勤してきた。



「お疲れ様、ヒナタ。」



「お疲れ様〜、翠ちゃん。今日のメイク可愛いね、リップ変えた?」



「うん、グロス塗った。ヒナタもようやく女子の変化に気づくようになったか〜。」



からかうように言うと、ヒナタは少し寂しげに笑って。



懐かしむようにそっと手首に触れた。



「ちょっとは見習わないとなぁって思ってね。お客さんにもウケ良いし。」



意味ありげにウィンクをしてロッカールームに向かうヒナタの後ろ姿を見て、今は亡きリョウのことを思い出した。



ヒナタが手首に触れるのは、リョウが死んでからの癖。



その場所には、リョウの弔いのタトゥーが入っているから。



天使になってしまったリョウを…いつでも思い出せるように。



天使の羽に、リョウが好きだったセブンスターを象って星と7の文字を彫ったタトゥー。





『女の子の変化にすぐ気が付かないと、キレられちゃうからね。昔からそういう目だけは鋭いんだ。元々翠ちゃんは細いんだから、それ以上痩せたらダメだよ。』





いつかの日、私を気にかけてくれたリョウがすぐに脳裏に浮かんで。



思わず流れそうになる涙をぐっとこらえて。



カウンターに立つ、バーテンダー姿のヒナタと湊を眺めた。

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