第5話

「あっという間だなぁ…。」



「何が?」



「湊に会ってからもう5年経つから…なんだかあっという間だな、って思って。」



「もうそんなに経つ?」



私の言葉に目をぱちくりさせる湊。



「だって私が17の時に湊に出会ったから…今年で22になるし。」



「そっか、早いな…。」



「あの頃の私はこうやって湊と5年経っても一緒にいるなんて思わなかったよ、きっと。」



「そうだろうな。なんだか夢みたいだ。」



「そんな大袈裟な…。」



「だって、翠はいつか俺に愛想つかして離れていくと思ってたから。」



そう呟いた湊の横顔をちらと見ると少し悲しげに瞳が揺れていた。



思いがけない湊の弱音に少し驚く。



「あの時の翠は…なんていうか一匹狼で。俺がいくら口説いても俺のものにはならないだろうと思ってた。」



「そう、かな…?」



「気づいてなかった?俺結構アタックしてたつもりだったけど。」



弱々しく笑う湊を見て、必死に過去の記憶を辿る。



「まぁ、いいんだよ。今翠が隣にいるだけで幸せ。」



優しく私を抱き寄せる湊の胸に、なすがまま頭を預ける。



ほんのり甘い、ジャズクラブの香りに包まれて。



私はそっと目を閉じた。

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