第10話
迅がアイリスと出会ってから2週間が経った
あの日以降、リーリスの知り合いに出会わないように引き籠り生活をしていた。
金はある、このまま狩人を引退し、長いであろう余生を過ごすのも一つの道だという考えも頭の隅にある、だが・・・
「目、つけられているのよな・・・」
迅の視線の先、そこにあるのはアイリスから渡された黒い剣
あの日、あの時、確かに店内に置いてきたはずだ、だというのにその次の日には家の中に置かれ迅は戦慄した。
嫌々ながらも外に出て、捨てることもあった。
だが部屋に戻ると、捨てたはずの剣が先回りされたかのように置かれている。
もはやどうすることもできないと迅は悟った
そんな監視されている可能性がある状況で自堕落、怠惰な生活をおくり体を鈍らせれば、再びあの2人に再会した時、自分がどうなるのか想像すれば背筋が凍る
溜息をつきソファに沈んでいると迅の携帯が鳴る
それは高天原、文治からの電話だった。
「もしもし?」
『迅か?』
「なんの用だよ?おっさん」
『それはこっちの台詞だ馬鹿もん、聞けば最近依頼を受けていないそうじゃないか、確かにいろいろあったかもしれんが、引き籠る事は許さんぞ』
まるで親のような事を言ってくる文治に迅は頭をかく、と同時にほんの少しだけ心臓の鼓動を早くさせる
実はリーリスとの
1つはただでさえリーリスのことで頭を悩ませているのにそれにアイリスという追加の爆弾を投下するのは更なる混乱を避ける為
そしてもう一つは迅がそれらの、今まで表舞台から姿を消した伝説的存在に短期間で会っているということに変な勘繰りをされるのを避ける為だ
狩人の中にも自分のかわいさ、もしくは力を求める求道者が化物に懇願し、自身を化物へと変える者も極稀だがいる
それらの狩人はこの業界から追放、討伐対象になる
そういった誤解をされないために迅は高天原に報告をしていない
文治ぐらいなら個人的ではあるが言っていいかもしれんがどこから漏れるか分からない。念には念をだ
「あ~・・・なんだ・・・わかった、近々受けるよ。それでいいか?」
『だめだ、今受けろ』
「はぁ?・・・・何言ってんだおっさん」
『・・・実は・・・』
そしてその日、迅は真夜中の森を歩いていた、アイリスから渡された黒い剣を携えて。その理由は高天原からの依頼
『実は最近、狩人の死亡者が多い、それも1人や2人ではない。まあ、こういう業種だ・・・そう珍しくはないが中にはそれなりの実力者もいた。そしてその死体らは総
じて上下綺麗に分かれていた・・・討伐対象の化物と一緒に・・・』
迅はその現場の一つを訪れていた。俗にいう現場検証のようなもの、何かしら手掛かりがないかを探すためだ
少し歩いて迅は現場に着くと、そこには迅に手を振る先客がいた
「久しぶりです、先輩♪」
迅を先輩と呼ぶ少女、髪を派手なピンクに染め、高天原所属を示す戦闘服を改造し、肩だし、臍出し、ミニスカに黒ストッキングという露出の多い少女がいた
「・・・久しぶりだな
「もぉ~いつも言ってるじゃないですかぁ、可愛くない苗字で呼ばないで美央って呼んでくださいってー」
齢26歳になる迅に目の前の少女、環桐美央の若者テンションにはついていけなかった。
迅のことを美央が先生と呼ぶ理由それは彼女を一時期師事していたからだ
美央の家、環桐は古くからある狩人の家系、その中で美央の才能は秀でていた。それは家の者たちには手に余るほどに
そして自分達ではどうにもできなくなった環桐は高天原、正確には文治に助けを求めた。
そしてその依頼は迅に行き美央の指導役になることになった。
そして美央は大海を知る
初めての敗北、そして敗北を与えた迅に懐くのもそう不思議なことではなく時間もかからなかった
結果、最強に指南された天才は18歳という若さで高天原内で他を寄せ付けない実力を持つことになった
「お前と共同ってことはそれだけやばいってことか・・・」
「被害も多いですからね、早急の解決が望ましいってことですよ」
「それもそうだが・・・それは遺物か?」
迅の目線の先、美央が手に持つ槍、そして人差し指に着けている指輪のことを指している
「念には念をってやつです、環桐も私には死んでほしくないんですよ・・・そういう先生のそれも遺物なんじゃないんですか?」
「・・・わからん」
「えぇ・・・だいじょうぶなんですか?それ」
美央はジト目で迅を見るが仕方がない、本当の事なのだから
アイリスから渡された黒い剣、おそらく遺物なのだろうがその能力はいまだ不明
「まあ、先生なら大丈夫でしょ。でも油断しないでくださいね?久しぶりみたいですしぃ?」
「ふっ・・・お前に言われるほど衰えてないさ、それにそういうことを言うのは俺に一度でも勝ってから言え」
いたずらな、挑発的な笑みを浮かべる美央に、迅は余裕の笑みで返すと2人は現場へと足を進めた
現場はなんてことのない森の中、すでに死体は回収されているがまだ時間はそう経っておらず、そこで死んだであろうことを示す血が地面を赤く染めていた。
「先に見ている調査員の報告によると・・・上半身と下半身が綺麗に刃物で斬られたかのように綺麗に分かれ即死、討伐中だった化物も含めて・・・他の場所でも同じみたいです」
「まぁ、普通に考えれば同一人物で、第3者の介入だよな」
「えぇ、となるとその第3者、確実に化物でしょうがその目的はなんなのか・・・」
美央の疑問は最もだ、やっている事は通り魔、そして死体は放置している
化物の中には人間を食す者の方が多い、だがこの通り魔はそういった食料目的で殺しまわっているわけではないように見える
「さて、どうするか・・・」
現場を見ても手掛かりは見つからない、仕方ないが今日は引き上げて後日別の場所も見てみるとしようと美央と迅が考えていると
「っ!!先生・・・」
「ああ、分かってる・・・まさか一発目で出てくるとはな」
先ほどまで何も感じなかった、しかし突如として肌がピリつくほどの気配を2人は感じ武器を構え臨戦態勢をとる。だが美央は今までの余裕はなくなり、よく見ればわずかに槍を持つ手は震えている。
そして迅はこの強大な気配を持つ者達を脳裏に過ぎらせ、徐々に感じていた気配は音をたてこちらに近づいてくるのを確信する。
脳裏に過ぎった者達と同じ他を寄せ付けない力を持っている者が来ると
そして森からその主は姿を現した。
外見は女性、10代だろうか?幼い顔立ちと体、だが決定的に人間とは違う容姿
獣のような青い体毛を局部に身に付けているうえに尻尾、そして頭部に2つの犬耳
「ワーウルフ・・・」
ワーウルフ、早い話が狼人間、鋭い牙と爪をもち身体能力も人間の比ではない、そして人を食べる化物筆頭
すると目の前のワーウルフは鼻を動かし匂いをかぎ始める。そして
「いた」
短く言葉を発すると迅に目がけて襲い掛かる。その速さは人の目では追えないほど
「っ!」
だが迅の眼だけはそれを捉えることができていた。
放たれる爪に剣を合わせるとワーウルフの動きを止め事が出来た、そしてそれに気づいた美央はすぐさま恐怖を消し思考を切り替えると槍を頭部に目がけて突く
だがワーウルフはその攻撃を軽く頭を動かすだけで回避し、迅を踏み台にしながら飛び、距離を空けた
迅は踏み台にされ、その反動は迅の体をズルズルと後ろに引き摺らせるがすぐに止まる
「大丈夫ですか?先生・・・」
「ああ、問題ない」
美央は敵を睨みながらも迅の安否を確認、迅は問題ないと答えると同様に睨み武器を構えなおす。
ワーウルフは迅だけを見ながら口角を上げ牙を見せていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます