第11話

迅たちと対峙したワーウルフの少女は迅だけを見ながら牙をむき出しにし、喜んでいるように口角を上げていた。

そして再びワーウルフは迅に駆け出し攻撃を仕掛ける。

速さ、力共に人間離れした力で振り回す爪の攻撃を迅は剣で防ぐと鉄同士をぶつけたような音をたて、火花が散る


「・・・」


爪と剣の攻防、そして最近感じていなかった本気で殺しに来ている者との戦いに迅は違和感を感じていた

それはこの化物と対峙した時の攻撃を捉え、受け止めれた事だ

先程の攻撃、前までの自分なら反応できず死んでいた、仮に奇跡的に狩人の勘で受けたとしても衝撃は殺せず、吹き飛ばされていた。

だが自分はその攻撃を受け止め、何なら今も火花を散らしながらワーウルフの攻撃を防ぎながらも、攻撃に転ずることができている

今までの強者との戦いで迅の限界は更新され、更なる成長を遂げた結果だ

それに今は1人じゃない


「はぁぁぁ!!」


迅との攻防中の隙をつき美央は横やりを入れるかのようにワーウルフに再び攻撃をしかける。だがそれをワーウルフは難なく回避すると


「邪魔」


「っ!!」


体を逸らした勢いを利用した回し蹴り。それを美央は槍で受け止めるがその威力を殺しきれず吹き飛ばされる


「かはっ!!」


「環桐!!?」


木に激突し、口から空気が漏れる。だがワーウルフはそんな隙だらけの美央を追撃しようと走るがその背後から迅が剣を振り下ろすしかしワーウルフは一瞬の内に跳躍し回避、迅から距離をとった。

すぐさま迅は敵を視覚に収めながら駆け寄ると美央の容態を確認


「無事か!?」


「けほっ・・・大丈夫です・・・それに条件揃いましたし・・・」


美央は血反吐を吐きながら迅の心配する声に答えるとふらふらになりながらも立ち上がり、槍を投げるように構える。すると槍は紫のオーラが見え始めた


「起きろ!!紫鰐しがく!!我が敵を追い喰らえ!!」


言い終わると同時に美央は槍をワーウルフに向けて投擲する、それはまるで弾丸のような速度で放たれる。しかしそんな速度であろうとワーウルフは簡単に避けられてしまった・・・のだが


「・・・っ」


避けられた槍はまるで意識があるように軌道を変え、再びワーウルフに襲い掛かる。これが美央が持ってきた遺物、呪槍『紫鰐』の能力

持ち主を傷つけた者へのみを絶対追尾するというシンプルな能力だ


「・・・ッチ」


だが、その追尾はワーウルフがどれだけ速く動き避けようとも確実に敵を追い続け主の敵に喰らい尽くすまで止まらない

ワーウルフも自分を追いかけ続ける槍に静かに舌打ちをしながらも確実に回避をしていた。しかし迫るの槍だけではない


「はぁ!!!」


「・・・っ」


迅はワーウルフが回避した先に先回りし、剣で攻撃するがそれも避けられてしまう。だが・・・


「・・・?」


自分に左右後ろ、そして上空から迫ってくる

いつの間にか増えていた紫鰐にワーウルフは驚きながらも、その持ち主である美央を横目で見る

そこには投げた場所から動かずこちらを睨み続けている姿

そして人差し指に付けている指輪が妙に光っていた

美央が持ってきたもう一つの遺物『銀鏡』

それは身に付けた者があらかじめ指定した物を複数、まったく同じものを出現させることができる指輪。

その数は対象に応じて変わるのだが遺物も例外ではなくその能力も備わっている

条件として発動中はその場から動けない欠点はあるが相手を追尾すると紫鰐との相性はいい。

そうして迫ってくる4本の槍と迅の攻撃


った!」


美央の声が自分たちの勝利を確信するように響く


だが無情にもそれは失敗に終わってしまう


「・・・遅い」


ワーウルフが呟くとその場から消える

そして唯一その動きを捉えられていた迅は空を見上げ、その行動に美央も見上げる


「っ!?遺物を解除しろ!!」


そこには遥か上空から月明かりに照らされたワーウルフが紫鰐を持ち、体を弓の様にそらし、こちらに投擲しようとしている姿。


「ダメです!!あれは本体!!」


美央は迅の言葉からすぐさま紫鰐を消失させる為にその場から動くがワーウルフが持っているのは本物、それを証拠に再び主の敵に迫っていた3本の紫鰐は飛散した

もちろん取られた方の紫鰐も逃れるかのように震えてはいるが人間とは比較にならないほどの怪力に負け、逃れることができない

そして・・・


「ばいばい」


まるで友達と別れるような軽い言葉と同時に紫鰐が放たれた

紫鰐も抵抗をしてはいるものの、その速度は美央が投げた時とは比べ物にならないほど速く、まるで流れ星がこちらに落ちて来るようだった。


「(死んだな、こりゃ)」


このまま紫鰐が落ちてくれば衝撃は計り知れず、今から逃げたとて間に合わないだろうと悟った迅は死を覚悟しながら落ちてくるを見続ける

おそらくこのワーウルフはリーリス達の知り合いだろう、そして今まで死んでなかったのは運が良かっただけ

そんな運もここまでかと迅は最後に笑う


「だが・・・」


こんな所で死ぬつもりは毛頭ない。最後まで足掻いて足掻いて足掻いてやると迅は覚悟を決める

無駄だと分かっている。おそらくここで自分は死ぬだろう、だが諦めない。それしか能がないのだから


「・・・?」


そうして迅が武器を構えた瞬間


ドゴォォオンン!!!!!!!!!!!


紫鰐は地面へと衝突し、轟音を鳴らす

その衝撃は凄まじく、まるで爆心地のようなクレーターを作るほどであった


「・・・・・」


衝撃により巻き上げられた砂煙は周囲の視界を潰すほど濃く、何も見えない

常人、いやほとんどの生物は普通ならこの衝撃で吹き飛び、ただでは済まないだろうにもかかわらずワーウルフはその場を離れず、まだ砂煙が晴れないクレータを見続け

る。その表情は笑っていた


「・・・・・これがお前の力か」


迅の声と共に、砂煙は風に吹かれ晴れていく。そしてそこに現れたのは無傷の迅と美央、そして無数の光る刃が盾のように2人を覆い守っており

迅の握っていた剣は刀身が黒から白く光っていた

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化物に好かれる化物狩り 浅葱 @ASATUKI-39

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