第8話

アイリスが杖を迅に向け、迅はそれを睨む

現状丸腰の迅の武器は自身の体、精々が石を投げる程度、それでもその辺の化物なら対処できるのだが相手はなんでもありの魔法使い

逃げようにもここがどこなのか分からないし、逃げられない可能性の方が高い


「それじゃあ、いくわよ?」


「っ!」


刹那、今までの思考をかき消すかのように迅は自分の体が縦に斬られる幻が頭に浮かび、すぐさま横に飛んだ

するとどうだ?迅が今まで立っていた場所が音もなく地面に亀裂が走っていた

だがそれだけではない、迅が飛びその亀裂を見ていると僅かな違和感、今いる場所の温度が上がったように感じすぐさま飛んだ。

次の瞬間、火柱が迅の目の前に上がる。離れたにもかかわらず感じられる高温に思わず迅は顔を歪ませる


「すごいじゃない、大体最初ので終わりなんだけれど」


「・・・っは、お褒め光栄だな!」


もうストレスで変なテンションに至った迅は軽口を叩くが、その内心は生きた心地がしない。

今の回避だってほとんど化物狩りの勘、直感で動いたに過ぎない、一歩間違えれば即死だ


「でも、まだまだ、これからよ?」


アイリスがそういうと火柱はまるで蛇の様にうねり迅に襲い掛かる


「っ!クソが!!」


迅は悪態をつきながら火柱を避ける、だがどれだけ避けてもまた襲い掛かる火柱に迅は徐々に追い詰められ・・・るわけがない

避けながらも迅は徐々にアイリスに近づいていた、だが空中にいるアイリスには一歩じゃないくらい届かない、だが


「ッオラァ!!」


迅はアイリスにめがけて何かを投げた、アイリスはそれに気づきながらも避ける必要がなかったため動かない


「っ!?」


そして迅から放たれたそれはアイリスの目の前で破裂し眩い光を放った


「持ってて良かった!!ライター型閃光弾!!」


そう、迅が投げたのは読んで字のごとくのライター型閃光弾、迅の緊急用逃走用の奥の手。リーリスの時に使わなかったのは単純に使う隙が無かったからだ。

閃光弾の光によってなのか迅を追いかけていた火柱は動きを止め、その場で飛散した。


「っ!・・・やるわね」


閃光弾の光にやられたのか、アイリスは目を瞑りながらも杖を上にあげる。すると


「おいおい、マジかよっ!」


そこに広がるのは透明な青空、大量の水が杖の先に集まる

さて、この水の塊が落ちてくるくらいなら迅は何とか耐えられる


「っ!?」


だが、現実は甘くない


水の塊に気を取られていると、突如として迅の腕に痛みが走る、確認すると何かに斬られたように服は切れ、肉を軽く裂き血を流していた

アイリスがやったのは単純、水滴を落としただけ、だがその速度は銃から放たれた弾丸の様に速く、音もなく意識外から放たれたそれに迅は反応できなかった。

最初の一撃はアイリスがこれから始めることを教えたという慈悲のようなものだ


「頑張ってね?でないと・・・死ぬわよ?」


「っ!」


そして降り始める弾丸の雨が迅を襲い始める。

迅は腕から流れる血を気にしている暇はない、すぐさまその場から離れる。全力で、死ぬ気で


「はぁ!はぁ!・・・クソッ!」


唯一の救いなのはその雨は迅の真上から降るという超局所的な為、避けられないことはない事、それでも人間が雨を完全に避けられるかと言えば不可能だ

徐々に水の塊は小さくなっていき、ついに水は尽きた

雨の弾丸は一体どれほどの時間降り続け迅を襲ったのだろう

既に服はボロボロになり、体も傷つき血だらけ、何とか立っているものの血を流しすぎたせいか若干意識が朦朧としてきている


「ハァ・・・ハァ・・・クソがっ!」


最早悪態をつくのがやっとの迅に対して、ゆっくりと地面に降りてくるアイリスその顔は笑っている、玩具を見つけたような子供の様に


「なるほど・・・リーリスが気に入るのもなんとなくわかるわ、貴方本当に人間?」


お前に言われたくない、友人の言葉が正しいのであればアイリスは人間で100をゆうに超えているはず、逆にこっちが問いたいくらいだ


「それじゃあ、次はこれで相手をしてあげる」


アイリスはそういうとまた杖を振る、その行動に迅は身構えるが特に周りには何も起きていないかった

そして光がアイリスを包む、するとそこにはが立っていた

白い長髪をなびかせ、背は170cm前後だろうか、顔立ちは整っており出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる無駄のない肉体。100人中100人が目を引くような美人、腰には1振りの剣を携えている

そんな美女が現れた。

多少の驚きはあるものの迅はその正体が何なのか言われずとも分かっている。分かりきっている


「・・・それが本当の姿か?始原の魔女」


「今までの姿も私、本当も嘘もないわよ」


目の前の美女は先程の少女の姿をしていたアイリスだ。迅の言葉に笑みを浮かべるとアイリスは剣を抜き、ゆっくりと近づいてくる


「さ、第2回戦といきましょう?」


「っ!せめて武器くれませんかね!!?」


迅の懇願は虚しくも空に消えた剣の間合いに入り込んだアイリスは迅の首めがけ、一切の容赦もなく剣を振りぬいた。

だが軌道が見えれば避けられないこともない、迅は剣が当たる瞬間体を捻り躱す。そしてすぐさま距離を取り再び構える

それが予想通りだったのかすぐさまアイリスも距離を縮め追撃を図る。


「っ!舐めんな!!」


「あら?」


だが迅もそれをよんでおり、距離を縮めてきたアイリスの腹めがけて拳を放つ。

完全に虚を突いた一撃、決まったかに思えたがアイリスは迅の拳を見切り剣を持っていない左手で受け止めていた。

それがわかるとすぐさま再び迅は距離をとるが出血と疲労で足元がふらつき、膝をついてしまう


「いいわね、貴方はとてもいいわ!リーリスが気に入るのもよくわかるわ!!」


その様子にアイリスは笑う、だがそれは嘲笑なのではなく、さっきと同じようなお気に入りのおもちゃを見つけた子供の様だ。


「でも、やっぱり一方的なのはおもしろくないわね」


すると突如として光が迅を包む、この感じに覚えがある迅は身構えながら時を待つ

そして飛散すると現れたのは傷は癒え服も治りアイリスと会った時の姿に戻っていた


「・・・」


だが迅はアイリスを睨み続ける、それを見てアイリスは笑みを深めると指を曲げる


「!?」


するとどうだ、迅は浮きアイリスに引き寄せられる。抵抗しようにも縛られているかのように体は動かず

そしてアイリスの前まで引き寄せられた


「はい、これ」


するとアイリスが使っていた物とは違う剣がどこからともなく現れ迅に渡された。


「これでまだ遊べるでしょ?」


「・・・っ」


こちらが死にそうになっていた戦いはアイリスにとっては遊び、迅は忌々しいと言わんばかりに睨みながらも渡された剣を受け取る。

それを満足げにしながらアイリスは迅から距離をとると、再び剣を構える。

迅もそれに不本意ながら答えるように剣を抜く、刀身は黒いだけで他とは変わらないように見える

そう確認しながら、迅も左手に鞘を、右手に剣を持ち構える。


「さあ、続きを始めましょ?」


迅にようやく反撃のチャンスが訪れた

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