平熱
悲しいことに君は平熱症状
素知らぬ顔で明日の旅行の話をしている
きっと明日の夜ご飯のことも僕より前向きに考えられるし、
その先は言わずもがな
代わりに考えてくれと言ってやりたいが
連絡先はとうの昔に消してしまった
新しいニュースを知らせるカモメも次第にやってこなくなって
ポストに山積みになっていた手紙は焼き捨てた
僕がうかがい知れぬ彼女の生活は妙に華やいでいて
晩年のロックスターも、詩人もうらやむような
パンの代わりにケーキを食べるような
大理石が敷き詰められているような
随分と豪勢な暮らしをしているようだ
自分で用意したくせに、
ひもじい食事を並べて満足している僕は
誰の同情をひけるわけでもないのに
惨めな自分を慰めてばかりいる
上がり下がりする体温に惑わされながら
毎朝体温計を用いて、そう高くない体温を不思議に思い
納得しきれないままに外に出る
雨か否かでしか物事を見ることができず、
晴れていようが曇っていようが何一つ変わらない心持ちに辟易する
チラシはいつも貼られているのに
どこでやっているのかわからない会合の知らせが電柱に飾られていて
僕が抱く感想や心象が影響することなく
僕の知らないところで世界はどこかに歩いていく
関わりが作られなければ、人と人は疎遠になる
クラスなんてのが最たる例で、箱庭がなくなればみな散り散りになってしまう
付き合うことができるのは、世界が存続している間だけのわずかな合間
次元を跨いで異世界に渡ってしまえば、もう二度と出会うこともない
運が良ければ、劇場版でだけ会える友達のような関係になれることもあるだろうが
キャストの人数規定はそう多くはないものだ
体温計を取り出して、今までと比較する
自分の平常というのは常に頭の片隅にあって、
そこに表れる差異が揺れ動いた気持ちの代償だ
お別れの時は近い
平熱で安定しつつある体温が、明に物語っている
生活リズムが乱れ始める
今までどおりはもはや肯定したくないのだが
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