庭先にいた化物について

庭先にいた、犬だか猫だかわからない

馬鹿でかい化け物だが、餌をやったら懐いたので飼っている


彼の出自は不明、

便宜上彼と呼んではいるが、

性別が何かなんてわからないし、

そもそも性別という括りで語っていいものかもわからない


ただ唯一わかることは、彼が主に野菜を好んで食べて、

僕は苦手な野菜を食べずに済むということである


彼には大きなツノが生えていて、

最初家に入れる時は、そのツノで壁を傷つけやしないかと心配したものだが、

なんとも器用に傷つけないように振る舞って

僕の機嫌を損ねることがないように気を遣っている姿

生活をするのに支障がないとわかれば、

彼を我が同胞として家に招き入れることに対して

いよいよ忌避するべき理由も無くなって

いつしか彼は当たり前に僕の家に存在するものとなっていた


休日には時折出かけるものだが、

彼は散歩の類が苦手なようで、家を出ることを好まなかった

一日中寝ていることもあるし、

僕が寝ている真夜中に、ふらっとトイレに起きているのを見かけたことがある

基本的に彼は大人しくしていて、

僕は穏やかな生活を続けることができていた


たまに、スキンシップを取るように、

彼の毛並みの揃った背中を撫でてやるのだ

彼はそれで満足そうにするし、僕ももふもふの毛並みで

癒しを得るので、双方にとって利のある時間だった


ただしばらく過ごすうちに、僕側の考えに少し変化があった

こんなに可愛くて仕方ないのに、

全ての元凶はこの化け物にあるのではないかと思えてくる

彼の禍々しい色をした毛並みは目に悪く、

心を沈んだ気持ちに貶める

癒しを得ていたはずの時間も、その後の落ちた毛の掃除にばかり気を取られ、

なんだか煩わしく感じるようになる


しまいには、すり寄ってくる彼を差し置いて、長い旅に出たこともあった

僕は彼に、いなくなって欲しいと思っていたのだろうか

真意はもはや問えないが、行動だけを見るに、そう思われても仕方ないだろう


ある日いつものように帰ると、彼はいなくなっていた

僕は清々したような、どこか心許ないような気持ちになった

徐に街を出歩いて、彼の図体を探して歩いたけれど、見当たらなかった

早めに切り上げて、家に帰ってしまった

様々な感情が諦めに蓋されて、僕の奥底に押し込められていった


またしばらく経った

彼のことを思い出すことも少なくなった

ただ、彼の最後の姿だけは、いつまでも瞼の裏に焼きついてやまないのだ

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