題未定

君が正しいと言ったものは間違っていて

君が甘いと言ったものは僕にはどうにも苦かった

趣味が合わないところも好きだったし、

すぐ顔に出るところも好きだった


どれだけ嫌いになろうと思っても、

いいところしか思いだせない


言葉はあまりにも信用ならない

喉を通って口先から吐き出された音にすぎないものに

何を期待しろというのだろう


どこからの日々が本当で

どこまでの日々が本当だったのか


問い合わせてみても

君はどうやらあくびが止まないようで、忙しいようで

電話口で気の逸る僕をあざ笑うかのように

楽し気な鼻歌を歌っている


僕にはどのような態度をとられても怒りを感じる権利なんてなくて

受話器の機械的な音を反復している

次第にむなしくなって、追い詰められて

そっと受話器を置く

後には同じように受話器の機械的な音が残る

誰もいない空間だ

音はのびのびと部屋を駆けてまわる

うっかり足をひっかけて、シャツのハンガーが落ちる

深い深い谷底に落ちてしまったかのように

どうにも拾う気にはなれなかった


布団にもぐりこんでしまえば、きっと意識を持ち去ってくれるだろうと

いつもそう期待してしまうけれど

僕の身勝手な期待は押し付けがましくて、

いつだって迷惑そうな顔をされるだけ

短針がくるくると回って、明日への焦りばかりを募らせる


小さな四角い明かりが煩わしくて、そっと、布団とクッションの隙間に埋め込む

期待に反してそれはいつまでも静かで、

布団をかぶって惨めな自分を覆い隠そうとして

息苦しさと蒸し暑さで外の空気を求める

あっというまに頭は冷えて、冷たい鼻先がまた僕を布団の中へと追い立てる


エアコンのスイッチが自然と切れて、

狭苦しい部屋の中は冷気で満たされていく

受話器の機械的な音が、また思い出したかのように飛び回り

僕の穏やかな安眠を妨げる


どれだけ深い縁も、信頼関係も厚い思い出も

今この時ばかりは僕に味方しない

長く連れ添った家具たちは

僕と等式で結べるくらい愛しいというのに

ぽっと出の悪魔に媚びを売って

大嫌いと大好きの間を反復横跳びするのだ


あまりにも軽やかで、中身がなく、気持ちも込めず

ただ、妙に怪しい輝き

ひとつ選択肢を間違えてしまえば、すべてが水の泡になるような

そんな危うさを孕んで、僕はそれでも気づけない


裏の裏の、裏の裏

そのまた裏の、裏の裏まで

どれだけ考えても答えは見えてこない

入口から左回りで道を回って、また入口に戻ってきたことにも気づかずに

ぐるぐるぐるぐる

ぐるぐるぐるぐる

ぐるぐるぐるぐる

ぐるぐるぐるぐる

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