部屋

お風呂場の電気を消すと、玄関の電気がついている

玄関の電気を消すと、次はリビング

台所、トイレ、エトセトラ、エトセトラ

かならずどこか一か所の部屋の電気はついていて

煩わしいことこの上ない


誰かのいる空間が苦手で

ちいさなワンルームにこそ安心を覚える

たった六畳で、満ち足りた気分さ

自分が吐いた息で、きれいに埋め尽くしてしまえるから


いざ寝ようと布団にもぐりこんだとき、

部屋の片隅で明かりがついていることに気づく

ほんの些細な光だ、気にしなければいいのに

考えれば考えるほどに気になってしまって眠れない

電気を消してしまおうと布団から這い出て

引き留める毛布の手を振り払って、スイッチをOFFにする

消えた、あぁ一安心だ。

いざ寝ようと布団にもぐりこんだとき、

また部屋の片隅で明かりがついていることに気づく


気づけば二時、明日の仕事に差し支える時分

他人を招き入れることは聖域を汚されることに等しくて

だから招く相手は慎重に選ばなくてはならない

相手選びを失敗すると取り返しのつかないことになると知っている

何度失敗しても、やり方はつかめないままだけど


ふっとおのずから明かりが消えて

やればできるじゃないかと褒めた矢先

また別の誰かの香りがする

幸せそうな香り、悩みごとのひとつもないような、不自然な正方形

つくりものだとわかっていても、思いこみたいだけなのだと脳が諭す

誰よりも僕のことを理解していないのに

容易く理解者ヅラしてすり寄ってくる


誰かとの生活は芳しくない

自分の体を切り売りするような生活だ

君を思い出すきっかけはどこにだってある

そのひとつひとつを、ぷちぷちとつぶしていくのだ

目を背けていては、どこも見る場所がなくなってしまうから

向き合うことでしか、自分を保っていられないから

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