一人旅

真夜中に繰り出していきたい

持ち出すのは身一つ?それすらいらない

何もない、見どころもない、楽しくなければ賢くもない

そんな空虚な自分だけを抱いて

包み込むような冷たさに溺れていたい


からからと、財布につながった

ひとつっきりの鍵は、遊び相手をなくしてしまったようで

彼を外に連れ出してしまうのは、あまりにも酷な話だ

彼を巻き添えにしてしまうのは、僕の身勝手に他ならない


ぬくぬくと、せめてあたたかい部屋で眠れるように

布団は洗濯しておこう

衝動買いした布団乾燥機は一度きりしかつかっていない

せっかくの機会だ、彼に役目を与えるのもよいだろう

彼が僕の必要に応じてくれるかはさだかではないが


長く必要とされなくて、すねて縮こまっているかもしれない

都合のいいやつだと口汚く罵るだろう

どんな罵詈雑言も受け入れる腹積もりだ


黒革の擦れたあいつはどうだろうか

あまりにも克明に連れ添って、ページをめくる手を止めてはくれない

僕を惑わせて楽しんでいるような

あいつは付き添ってくれるだろうか

あいにく、一人が好きなのだ

あいつの囁きで、何もうれしいことなんてない

あからさまな投げキッスで、心証は悪くなるばかり

心細くなる大通りの隅で、ふいに糸を引きたくなったときに

ここぞとばかりに糸を垂らすやつだ

あいつを巻き込むことは許されない

また、あたたかい毛布を用意しておこう


指折り数えて過ごすけれど、

巻きつかれたように生活を続けていて、

いつまでも面影が消えない

なにもかも、すべてを取り去って

破滅衝動を飼いならして、かわいいやつめと手玉に取って

見たことのないくらい大きなドーナツにかじりつく

自分を大切にして何になろうか

細胞のすべてが入れ替わっても、消えない罪に苦しめられている

どこへ行こうと、何者になろうと、

この人生を生きるうちは、一人にはさせてくれない

ふいに生まれた別人格が、かわいいやつめと笑いかける

のんきそうで、気楽そうで、いい気なものだ

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