第31話 揺り戻し
その時だった。四方から
ほんの数度の
「ギー、ギチ、ミシ」
聞いたことも無い奇妙な音が響いた。聞く者もすべての魂の
「ブツン、ブツン、ブツン……」
「倒れるぞ、危なぇ」
誰かが叫んだ。
塔は、ゆっくりとその傾きを大きくし、やがて
「怪我人はいないか。下敷きになった者はおらぬか」
やがて、我に返った役人たちが口々に叫びながら人々の間を飛び回り始めた。
幸いにも、怪我人は数名で、いずれも倒れた際に飛び散った瓦の破片で傷を負った者だけで、傷も浅いものだった。他に腰を抜かして動けなくなった老婆が二人と云う報告が、寺社奉行所の与力にあった。
「富五郎、その方の
与力は、富五郎を呼ぶと礼を言った。
「いえ、あたり前の事でごぜぇやす。あっしも胸を撫で下ろしやした。長谷部さまもお奉行様からお
「
長谷部と呼ばれた寺社奉行所の与力は、そう云いながらも、まんざらでもない様子だった。
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