第30話 黒山の人だかり
「しかし、見物人ってのが気になるな。実際見てみねぇと分からねぇが、刀の
佐吉は富五郎に問うた。
「十中は八・九、間違いありやせんぜ。刀の反り程となると、こりゃもう
富五郎は、確信を持っている風だった。
富五郎は見物人で人だかりがしていると聞いて、放っておくこともできないと考えたのか、甚五郎を伴って常光寺の
現場に着いてみると、なるほど黒山の人だかりがしていた。中には近付いて塔を見上げ、騒いでいるお
「さあ、どいたどいた。塔が倒れたらひとたまりも無いのだ。分かるか」
「見世物ではないのだ。帰れ、帰れ。わしらの言葉が分からんのか」
役人たちが、人だかりの整理を始めた。最初のうちは帰り渋っていた
「富五郎さん、当てつけですかい」
富五郎が振り向くと、そこには梅二が腕を組んで立っていた。さすがに顔色は良くない。今回の事は相当
「なんで当てつけとか取るんだい。お前がしないからやってるんじゃないかい」
富五郎は心底怒っていた。
「少々傾いたって倒れたりするもんじぁありませんよ。また壊して作り直しゃいいんですから。家にはそれくらいの余裕はありますよ。何処さんと違ってね」
梅二は精一杯の強がりを言った。
「なんだと、この程度の地震で傾く塔なんざ造りやがって、その言い草は。おいらだったら、こっ恥ずかしくって二度とお天道様は仰がねぇぜ。どうでもいいが、倒れて死人でもでりゃお前のその
「………」
さすがに、富五郎の言葉に梅二は押し黙った。
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