第28話 慶安の大地震
幸いにも、発生したのが深夜ということもあり、各家々の火は落とされていたので火事による被害は少なかった。壊滅的被害こそ免れたものの、江戸の町はあちこちで建造物が崩れ、
実際、一日に四・五十回もの余震があり、江戸城も
日が昇り、被害の実態が明らかになるにつれて、人々の顔にはまた恐怖が戻って来た。
「こいつぁ
浅草寺の現場が気になって、朝一で駆けつけて佐吉が帰って来るなり女房のお美代に言った。普請からは離れたとはいえ、やはり気になって見てきたのだ。
「お寺、大変なことになってんのかい?」
お美代が心配そうに聞き返した。
「お寺は大丈夫だ。なんともなかったよ」
「ああよかった」
お美代は、ほっとした顔をしたが、すぐにまた聞いてきた。
「じぁ、
「何処もかしこもだよ」
崩れたり、倒れたりしている家だらけだ。
幸いにも、発生したのが深夜ということもあり、各家々の火は落とされていたので火事による被害は少なかった。壊滅的被害こそ免れたものの、江戸の町はあちこちで建造物が崩れ、
実際、一日に四・五十回もの余震があり、江戸城も
日が昇り、被害の実態が明らかになるにつれて、人々の顔にはまた恐怖が戻って来た。
「こいつぁ
浅草寺の現場が気になって、朝一で駆けつけて佐吉が帰って来るなり女房のお美代に言った。普請からは離れたとはいえ、やはり気になって見てきたのだ。
「お寺、大変なことになってんのかい?」
お美代が心配そうに聞き返した。
「お寺は大丈夫だ。なんともなかったよ」
「ああよかった」
お美代は、ほっとした顔をしたが、すぐにまた聞いてきた。
「じぁ、
「何処もかしこもだよ。崩れたり、倒れたりしている家だらけだ。
佐吉はそう云うと、道具類を並べ始めた。崩れた家の下から人を救い出すには道具類が必要だと判断して帰った来たのだ。為三は先代の豊三の弟子の一人で、佐吉とは兄弟弟子になる。今回の普請では、梅二に引き抜かれた職人の一人だった。
「為三さんとこなの、でも、あんたもお人好しだね」
お美代は、
「馬鹿野郎、為三とこだろうが何だろうが、人が死にかけてんだ。どうのこうのとか云ってる場合じゃねぇよ」
佐吉は、お美代を
江戸っ子一流の
佐吉は、気の毒にも思ったが、同時に、昨今のこともあり、
(ざまぁみやがれ)
という心の
(腹も空いたし帰ろうか)
数歩、歩いた時だった。
(人が死にかけてんだ。どうのこうのとか云ってる場合じゃねぇだろう)
突然、心の中の
次の瞬間には、
「どいた、どいた、通してくれ」
と叫びながら人垣をかき分けて入っていく佐吉がいた。
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