第20話 西国の大大名

 公儀こうぎから正式の通達があったのは、翌年の二月だった。早速、下請け達の手配てはいを始めると、思いのほか、我も我もと直談判じかだんぱんにやって来た。いずれもが自分も普請の端に入れてくれとの願いだった。

(土佐屋の名はさすがのものだ)

 改めて感じ入るほどであった。

 材木の注文、人足の手配などで飛び回っているうちに、あっという間に時は過ぎて行った。そんな時、ある噂を耳にした。それは、梅二の処も大きな請け負ったという話だった。そのうち、噂は本当の事だと分かった。さる西国の大大名が菩提寺ぼだいじを芝に移転造営することになり、それを一手に請けたことの事であった。最初は気にもしなかったが、取り込んでいたはずの大工や左官が、ぼろぼろとくしの歯が抜けるようにやめて行ったことで、見過ごしておけない事態となってしまった。ほとんどが梅二の差し金だった。腕のいい大工や職人を高い給金で引き抜いていたのだ。

「あの野郎」

 一人、自分の部屋で深酒した時、思わず大声で叫んだのだ。お美代が驚いて起きたほどだった。

「あんた、どうしたの」

 お美代はこわごわ聞いてきた。

「ああ、すまねぇ、起こしっちまったか」

 お美代は、佐吉の座った眼を見て悟ったのか、

「梅二さんの事でしょ。気にすることなんかないわよ。あんたの方がずっと腕が上だもの。お父つぁんも言っていたわ。自信持てばいいのよ」

 欠伸あくびをしながらそう言い残すと、また寝間に帰って行った。

「女ってのは気楽なもんだな、もう寝るか」

 一人つぶやくと、そのまま掛け布団をかぶって横になった。

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