第12話 猿まね
甚五郎が引き上げた後、何故か佐吉は妙な息苦しさを覚えた。甚五郎の様に豊三の期待に応えられない自分に腹が立って来たのだ。そして、もう一度、豊三の
「親方、あっしは、本当に申し訳なく思っておりやす。
豊三は、しばらく佐吉が頭を下げて
「馬鹿野郎、おお俺は日本一のみみ宮大工を婿にできたんだ。俺ほど幸せ者はいねぇよう」
と云った。
豊三は続けた。
「お前ぇ、梅二の野郎の事でそんなこと考えちまうんじゃねぇのか。あんなゲゲゲス野郎、お前の
「猿まね?」
「そうだ、猿まねよ。おお俺をまねしただけの野郎よ。おいらが猿だから、やや奴は猿まねよ」
豊三はそう云うと、
その日の豊三は、よくしゃべった。言いたい事のすべてを言い尽くそうかという勢いだった。
豊三は、上の娘のお
佐吉と梅二は先に江戸へ帰ると申し出たのだが、
「お前たちは旅の
と云って、豊三は帰さなかった。それどころか、行く先々で
「これで遊んで来い」
と云った。
豊三の話はその時の事だった。
「梅二のばば馬鹿野郎は、本当に遊んで来やがった。おしろい
豊三は吐き捨てるように言った。
「佐吉、あの時、おお前が何処で何をしてたか、俺は知ってるんだ。こいつは、ほほ本物だとお前を思ったんだよ。俺の目には狂いは無かった。おお前は日本一の宮大工になったんだからよ」
「そんな、日本一なんて、やめてくださいやし。あっしゃ、まだ、大した仕事はしてませんし、最近じゃ、もっぱら修繕ばかりで」
佐吉は恐れ入った。むしろ
「馬鹿野郎、俺は知ってるぞ。どっどどんな大きな本堂でも五重の塔でもお前は造れるだろう。自信あるだろう。お前の頭の中にはちゃんと図面はできてんだ」
「そんな……」
「すすすまねぇな、俺がこんなになっちまったばっかりに、お前にいい仕事させてやんねぇで」
豊三は、そう云うと涙を浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます