第5話 蛻の殻
梅二は十日経っても出て来なかった。豊三は
「野郎、風邪でもこじらせて
「へい」
佐吉は、梅二が風邪を
案の定、梅二の長屋は
当時、長屋を勝手に出て行くことは重要な意味を持っていた。長屋に住んで居られるということは、親方である豊三と長屋の大家とが身元を保証しているということである。ちゃんと
豊三には、梅二の長屋が
「野郎、何処かに引き抜かれたか。恩知らずめ。それとも博打の借金でも溜めで夜逃げか」
吐き捨てるように言った。
「どっちにしても馬鹿な野郎だ。人の顔に泥塗りやがって」
豊三の怒りは、なかなか収まらなかった。
引き抜かれたわけでも博打の借金でもないことは佐吉は知っていた。しかし、いきなり居なく無るという事は、恩知らずのそしりは免れないであろう。気持ちは分からぬでもないが後味が良くない。
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