第2話 お美代の婿に
「佐吉、ちょいと話があるんだが、今晩付き合ってくれねぇか」
秋も深まった頃だった。仕事が終わって
「へい、分かりやした」
豊三と佐吉は、神田にある料理屋に上がった。
酒を
「佐吉、お前さえよければ、お美代の婿になってくれねーか」
「えっ……」
「お美代も今年で二十歳だ。知っての通り上の二人は嫁に行っちまった。俺には息子はいねぇ。代を取らすのは、お美代に婿を取るしかねぇんだ。何とかいい返事くれねぇかい。親の
そう云うと、豊三は頭を下げた。佐吉は豊三に頭を下げられたのは初めてだった。驚いて
「
佐吉は、
「
豊三も妙に緊張していた。豊三としてもこういう経験はしたことが無いので当然と云えば当然である。
「いや、突然のことで、あっしもどう返事いいか」
佐吉も急な事で胸が鳴った。大事な話だとは思っていたが、このような話だとは想像もしていなかったのだ。
「ああ、すまねぇ、すぐ返事しろって訳じゃねえんだ。お前にも
豊三はそう云うと、ほっとした顔をした。実際、こういう話を持ち出すのは今も昔もエネルギーがいるものである。
料理屋から出、しばらく一緒に歩いて豊三と別れた。
「いい返事待ってるぜ」
別れ際に、白い息を吐きながら豊三の言った言葉が耳に残った。
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