第一章 第五話 遥か彼方からの贈り物

 深い森の中、私はフランシアと向き合っていた。樹々が風に揺れ、ささやくような音が私たちを包み込む。

 フランシアは、いつものように静かに微みながら私を見つめている。彼女の瞳は夜を受けた葉のようにき、その視線にはいつもどこか底知れぬ深さがある。


 私たちが語り合うこの場所は、まるで二人だけが知る必密の聖域のようだった。空の切れ間から覗く薄い月光が地面を照らし、まるで森全体が呼収しているように感じられる。


「そういえば、昨日の夜不思議な出来事があったんだ。」

 私はそう言って、少し気はずかしそうに笑った。


 フランシアは唇の端を少し上げ、柔らかく微笑んだだけだった。その笑顔は、まるで「話してごらんなさい」と言っているように見えた。


 私はポケットから小さな石を取り出した。その石は紺碧に輝き、細い金の筋が一本、まるで銀河のように刻まれていた。石の中の金の粒は揺らぎ、森の闇に吸い込まれるように光を放っていた。


 フランシアの目がわずかに開かれる。

「...それは何?」


「これはね、空から降ってきたんだ。」

 私はその言葉を口にした途端、遠い記憶が鮮やかによみがえるのを感じた。


「空から?」

 フランシアの声は驚きというよりも、どこか貸重な響きを持っていた。


 私は石を見つめながら続けた。

「昨日突然、夜空が突然間のように明るくなりました。家の外が光に包まれて、目を閉じてもその光が瞼を貫いてくるようでした。そして、小さな光の粒が無数に降り注いで.....そのうちの一つが僕のすぐ目の前に落ちてきんです。」


 フランシアはじっと石を見つめていた。

「それで、その光がこの石に?」

 私は頷いた。


「でも、それだけじゃないんです。この石に触れた瞬間、何か大さな力が僕を包み込み、僕は自分が自分でなくなるような感覚に陥ったんです。それが運命だったのか、それとも必然だったのか、いまだにわからない。」


 フランシアはそっと石に手を伸ばしたが、途中で止めた。彼女はまるで神聖なものに触れるのをためらうようだった。

「そのとき、君は何を感じたの?」


 私は夜のざわめきに耳を傾けながら答えた。

「正直、恐怖でした。でもそのの中には、奇妙な安心感もあった。僕の小さな存在が、何かもっと大きなものに包まれているような感覚....宙そのものが僕を抱きしめてくれているみたいでした。」


 彼女は静かに頷いた。

「それは、君が宇宙と一体になった瞬間だったのかもしれないわね。」

 

 「宇宙と一体に?」

 私は彼女の言葉に耳を傾けた。


 フランシアは静かに終けた。

「この森に立っていると、私たちは自分が一つの存在に過ぎないということを忘れてしまう。でも、もし森も、空も、私たちも、同じ"全体”の一部だったとしたら?君がその石に触れた期間、それに気づいたのかもしれないわ。」


 私は彼女の言葉を反芻しながら、石を見つめた。この小さな石が、自分の存在を超えた何かと繋がっているとでもいうのだろうか。


「ねえ。」

 フランシアがゆっくりと私の顔を現き込んだ。彼女の風に靡く美しい髪と、底の見えない瞳と、白い肌が月光に照らされる。

「その石は君に何を伝えようとしているの?」


 私は答えを探そうとしたが、言葉が見つからなかった。ただ一つ言えるのは、この石が私の運命に深く関わっているということだ。


 森のざわめきが少しずつまり、私たちは再び黙った。星見の丘への誘いを受けるのは、その後だった。

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