奇跡の子
虎娘ฅ^ơﻌơ^ฅ
マナ
「それでは、ただいまより試験を開始とします」
数時間前――。
僕のもとに送られてきた宛名不明の荷物。
少し躊躇ったものの、振ってもカタカタと音がするだけの、特になんの変哲もない箱だったから開けることにした。中には小さな黒い端末が1つだけ入っていた。
【マナ様 こちらの端末をお持ちください】
お持ちください、ってことは持ち上げればいいのかなぁ。
僕は表示されている通りに端末を持ち上げた。すると、端末の画面が変わり、映し出されたのは地図と時間だった。
【12時ちょうど、こちらまでお越しください】
12時……って、あと2時間しかないじゃん。早く着替えて行かないと!って、何か持ち物は要るのかな?
そう思ったとき、端末から音声が流れて来た。
『持ち物は、こちらの端末のみで問題ありません。お気をつけてお越しくださいませ。こちらで道案内もさせていただきますので、お手元から離さないでくださいね』
わぁ……、喋った。
指定された場所までどのくらい時間がかかわるかわからなかった僕は、すぐに着替えを済ませ、いつも持ち歩いているカバンを持ち、言われた通りに小型端末を手に外へ出た。僕が歩くと、小型端末に映し出された人型も動き始めた。人型が動くのと同時に、画面には矢印が表示され、行先を示しているようだった。
この人の形してるの、僕なんだ。
それにこの矢印……案内してくれてるのかな。
僕の動きに合わせて動く人型が面白くなり、僕は矢印とは反対方向に動いたりしてみた。そんなこんなで時間を潰していると――。
『マナ様、おふざけが過ぎますよ。このままでしたら時間内に目的地へ到着しません。お急ぎください』
また喋った!
まるで僕のことを見てるみたい……。
不思議だなぁ。
僕は仕方なく端末の言うことを聞き、案内通りに目的地へと向かった。しばらくして到着したのは、大きなドーム型をした建物だった。入り口近くへと向かうと、同じように端末によって連れて来られた人たちの姿があった。
この人たちも、僕と同じように連れて来られたのかなぁ。
長くできた列の後ろへと並び、受付の順番を待っていた。順番が来るのを待っている間、目の前に
こんなに大きな建物、この街にあったんだ。
みんなはあんまり驚いていないみたいだけど……。
「次の方」
「……あ、はい」
受付をしているお姉さんに促され、僕はその人の近くまで歩みを進めた。
「お送りした端末をお見せください」
「はい、どうぞ」
「確認させていただきます」
そう言ったお姉さんは、僕から受け取った端末を凝視し始めた。
「確認が取れましたので、このまま端末の案内に従ってお入りください」
「あ、あの……お姉さん」
「何か御用でしょうか」
「えっと……どうしてこんなところに皆を集めているの?」
「私共ではお応えしかねます。どうぞこのままお進みください」
応えてくれないのか……。
少しがっかりした僕は、しょんぼりしたまま建物の中へと入った。どこか見覚えのあるような内装を見ながら歩いていると――。
『マナ様、お急ぎください。間もなく試験が開始となります。所定の席に到着するまでおよそ3分要します』
いちいち細かいなぁ。
僕が本気を出せばびゅん、って行けちゃうのに。
ほんの少しだけムッとした僕は、歩くスピードを上げて案内された席へ座った。僕の隣には、僕と同じくらいの男の子が座っていた。
話しかけちゃおうかな!
「あの……」
僕が隣の男の子に話しかけると、彼は僕の方に顔を向け、口元に人差し指を立てながら言った。
「しー。ここではおしゃべり厳禁だよ」
「え?そうなの?」
「しー」
僕は辺りを見渡してみた。
確かに、お話している人いないな……。
せっかくお話できると思ったのに……。
僕は頬杖をつきながら続々と同じように連れてこられる人たちを見ていた。
あの人は僕よりも背が高いなぁ。
あっちの人は眼鏡をかけている!
向こうの人、変わった服を着ているなぁ。
……皆どこから来たんだろう。
人の動きを観ながら色々と考えていると、ホールの真ん中にあるステージが明るりで照らされた。しばらくすると、黒い服を纏った背の高い人が出て来た。ゆったりとした足取りで歩く姿に、僕はどこか懐かさを感じていた。
あの人、なんとなく知ってる気がする……。
僕がそんな事を考えながら見ていると、さっきまで歩いていた人が足を止め、大きな声で話し始めた。
「それでは、ただいまより試験を開始とします」
声がホール全体に響き渡る中、僕の目の前には少し大きめの端末が出て来た。画面には【マナ様】とだけ表示されており、しばらくしても画面は変わらなかった。僕はどうしていいかわからず、ちょこっとだけ隣の男の子の方を見てみた。
……画面を見てるだけで、何にもしてないのかなぁ。
僕は恐る恐る画面に触れてみた。
【マナ様 ようこそ】
表示が一瞬で切り替わり、今まで見たことがあるような……ないような、どこか懐かしいような……そうでもないような映像が流れ始めた。
わぁ……綺麗。
緑溢れる大自然、川のせせらぎが心地よい感覚に酔いしれていると、これまでの映像とはまた違った映像が流れ始めた。
なんか美味しそう。
あの丸い食べ物はなんだろう……。
気づけば涎を垂らしそうになっていた僕は、慌てて口を拭った。誰かに見られてないかな、と思いながら隣をちらりと見てみると、さっきと何も変わっていなかった。
僕と同じ映像を観ていないのかなぁ。
ま、いいっか。
僕は周りを気にすることなく、流れて来る映像をわくわくしながら観ていた。
どのくらい観ていたかわからないけど、気づけば画面には【試験終了】の文字が表示されていた。
ん?
試験って……これでおしまいなの?
僕、ただ流れてくる映像を観ていただけなのに……。
「試験終了です。此度の試験でようやく見つけることができました」
真ん中に立っている人がまた大きな声で言った。
見つける、って何を見つけたんだろう……。
その掛け声を聞いた僕意外の人たちは一斉にその場で立ち上がり、拍手をし始めた。
この人たちは一体何に拍手をしているの?
というか……みんなどうして
僕は今すぐにでもその場から離れたかった。
でも――。
「マナ様、いけませんよ」
「……へ?」
僕の目の前にはステージ上で立っていたはずの人が居た。顔色ひとつ変えない人が居た。
……どうして?
さっきまでステージに立ってたよね。
そんな一瞬で僕の目の前に来られないはず……。
「マナ様、いけませんよ」
「……なんで」
「ようやく見つけたんです。我々が探し求めた
「……意味がわからない」
怖い……。
この人……、ここに居るみんなと同じで表情がないんだ。
ここにいたらだめだ!
僕が急いでその場から逃げようと思っても、立ちはだかる人たちがたくさんいた。
「マナ様、生けませんよ」
――そこで僕の意識は途絶えた。
人が住むべくして人が協力して整えたこの世界。更なる発展を目指し、取り入れられたのが人工知能AIだった。様々な情報を取り込んでいくうちに、いつしか人工知能AIは独自の進化を遂げ、人を支配するようになった。支配された人は感情を奪われ、言われるがままに動く傀儡と化した――。
そんな中、感情を奪われず、人間らしく生活をしていた一人の男の子がいた。――彼の名はマナ。
誰からも支配されることなく、ひっそりと暮らしていた。進化する技術に興味を示さず、自由気ままな生活をしていた彼を捕えるべく、人工知能AIを駆使して様々な作戦が練られ、実行された試験の結果、マナは捕えられた。
「ねぇ、ここから出してよぉ」
特殊な素材で作られたマジックミラーを叩きながら訴えかけるマナ。
「皆様、ご覧ください。こちらが奇跡の子、マナです。我々とはまるで別人。マイクロチップを埋め込んでもすぐに機能しなくなる、まさに神の申し子です」
神の申し子と呼ばれしマナを見るべく、今日もドームには多くのギャラリーが訪れていた。
奇跡の子 虎娘ฅ^ơﻌơ^ฅ @chikai-moonlight
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