第7話

次の日の夕方、僕はまたあの店を訪れた。

目的なんて、とっくに煙じゃなかった。たぶん、自分でも分かってる。


昨日と同じ通り。昨日と同じネオンの色。

けれど、青い傘は、そこになかった。


店内の扉を開けると、同じジャズが流れていた。

けれど――その空気の中に、彼女はいなかった。


「いらっしゃいませ」


出迎えたのは、別の女性店員だった。

丁寧だけど、どこか機械的な声。

僕は軽く会釈だけして、昨日と同じ奥の席に座る。


煙が用意され、マウスピースが置かれる。

甘い香りが立ちのぼるけれど、昨日よりも味がしない。


「今日、昨日いた方……お休み?」


「あ、あの子? はい、今日は非番です」


「……そうなんですね」


それだけ言って、僕はそれ以上聞かなかった。

聞く理由が分からなかったし、聞いたところで何が変わるわけでもない。


昨日より静かな煙の中で、僕は何度か、店の入り口に目をやった。

彼女がふらりと来る気がして、でも来ないのが分かっていて、それでも――見てしまう。


煙の輪をいくつか吐いたあと、僕は席を立った。

空になったマウスピースが、妙に軽かった。

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