第4話 繋がれる加護
翌朝、喫茶むらさめ。ーエミル・
朝のむらさめは、夜とは対照的だ。カーテンは開け放たれ太陽の光がふんだんに入ってくる。ランプは消えて花瓶の花が本来の色を取り戻す。
俺は、開店前にじいちゃんと二人、ここでモーニングを取ることが多い。今日もそんな日だ。
「じいちゃん、ジェレミーの槍、あれで良かったの?」
「ああ、ええよ。」
俺達は、庭の見える窓際のカウンターに腰かけている。
窓の外には藤棚がある。甘く穏やかな春を告げる香り。
「はい、エッグトーストと紅茶のセットですね。エミルさんはピザトーストね。」
「ありがとう。メルさん。」
この店のもう一人の看板娘だ。藤色の美しい髪の上品な女性。お昼担当だよね。
少し雨が降ってたもんな。陽の温かさとともに蜜蜂が藤棚で仕事をする羽音がする。蜜蜂か、ちっちゃくてかわいいな。父親の槍はスズメバチのように獰猛だったが。
俺達は今朝早くジェレミーのオヤジさんの槍の修復を終えた。
ジェレミーのやつは、店で待っていて修復された槍を受け取りそのまま出て行った。
「じいちゃん、終わった話でなんだけどさ。やっぱ俺は断った方が良かったんじゃないかと思うよ。」
十数年程の冒険者経験だが、あれほどの槍と使い手が負けたんだ。やっぱり・・・。
「あの槍の銘はな。
グングニル・・・あー聞いたことあるわ。それ元の世界で。真っ黒い馬にのってるヤツ?
「穂先30㎝、柄160㎝、
「はぁもったいない。命も槍も。」
ああ、ピザトースト美味いな。蜜蜂、うまく仕事してんのかな。飛び回ってるだけかぁ?
「覚悟をもって決めたことじゃ。尊重してやろう。・・・あの子に足りなかったのは時間だけよ。」
「時間?」
「ああ、若すぎたということさ。血も才能も精神力も十分に持っているのが見えた。そして加護もな。」
じいさんは紅茶をゆっくり飲んでいる。
これ以上の仕事の話は野暮かな。
だけど、じいちゃんはぽそっと言ったんだ。
「だから、加護を繋いどいてやったよ。父親と同じようにな。」
マーミヤの町郊外、荒野 ージェレミー・オキー
風を切って
「見えた!」
「ジェレミー!やっぱり無理だよ!あんたのオヤジさんも叶わなかったんだ!」
「あんまり長くは持たんぞ。」
「ヘレン、高度を上げてくれ!飛び移る!」
俺は、
ヘレンは
そしてゆっくりばれないように降下する。
こいつにトドメを刺せるとすれば、オヤジのつけたあの傷を深くえぐるしかない!
こいつは振動と感情で相手の位置を把握する。
降下中にあの傷の位置を見定めて一撃でしとめなければ。
「あれだ!」
自身、最強の魔法を一点にかけて構える。
必ず、必ず突き立ててやる。家族のために。自分のために。
「大ムカデよう!オレはテイカーだっ!お前の命、奪い取ってやるっ!」
大気が揺れた。もうこの距離では避けられまい。
銛一本で魚に挑む漁師のように槍を逆手に構える。
ここだっ!俺は身を
コンマ何秒の世界、体は木の葉のように舞っていた。
弾かれたのだ。白い石の鎧に。ああ、このままでは地面に激突する。
その瞬間、
「しっかりしろっ!」ベルナルドがジェレミーを拾ってくれていた。腕一本で繋がれた命。
握った槍を見つめる。よくあの衝撃の中槍を落とさなかったものだ。
前回折れて、しつらえ直された
金色の・・・スズメバチ? 俺は直感で確信した。オヤジだ。
「頼む!
仲間達の顔は蒼白になった。けれど、
「あの、ジェームスの息子が言うんだ。貸しだぜ!」
オヤジ、ありがとうよ。アンタの作ってくれた縁を今は借りる。
一撃を食らわした。もう
黄色い光りが集まってくる、重い羽音と共に。この重い羽音は危険な音だ。
「今だ!」
「ちぃええええいっ!」
今は、先など露ほども考えずに。踏み出すことだけに全てをかけて。深く、固く、冷たく。
俺は蜂の因子を引き継いだようだ。
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