第3話 仇に挑む理由
アウロンド装具店 ーエミル・
じいちゃんの店は、木と石で造られた落ち着いた雰囲気の店だ。元の世界でいうとイギリスの田舎の方の家にありそうな感じかな。結構な広さがある。まぁ、剣や槍、弓矢に盾、防具、薬と各種類ごとに結構な品揃えなのだが、それに加えて修理も行うのでバックヤードも含めて結構広い。
お天道さまも店じまいの頃なんだが。
あっ、呼び鈴が鳴ったな。お客さんだ。
「はい!いらっしゃい!」
入ってきたのは冒険者らしい。若いな。なんでそんなにズタボロなんだ?まぁいい。
「ようこそ、ご用件は?」
「これを直して欲しいんだ。」
その若い男が取り出したのは槍だった。
・・・これは、見覚えのある槍だな。いや、この槍を知らねえ冒険者は
「折れてるな。・・・あんたテイカーだね?」
「ああ、そうだよ。分かるかい?」
ああ、でも何か違和感あるな。こんな若いのにこんな凄い槍、扱えんのかね?
「おう、俺も元バウテイカーだからな。」
バウテイカーというのは、この世界の冒険者の戦闘形態におけるポジションのひとつだ。
人を見た目で判断しちゃいけないな。
「何とやり合ったんだい?」
「
「最近また出るのか。アッケーノが」
アッケーノとはアホみたいに硬い鎧を纏ったモンスターの総称。千年前から存在しているらしい。
しかし、この槍、相当な力がかからないと材質的に折れる代物じゃない。
「ああ。あんなにデカいのは滅多にいないらしいがな。・・・直りそうにないか?」
「え?」
「いや、あんたが目をずっと細めて見てるからさ。」
「ああ、悪い。クセなんだ。」
いけね。考え事すると目を細めちまうんだよな。
伝説のバウテイカー、ジェイムス・オキ。彼に槍を持たせたら右に出る者はいない。
空中戦になる冒険者の戦いで先陣を切るバウテイカー。彼の一突きはまるでスズメバチのように鋭かった。
「先祖伝来の槍なんだ。直せないか?俺が折ってしまったんだ。顔向けできないよ。」
「・・・そうなのか。・・・ええと。」
「ジェレミーだ。」
「おう、よろしくジェレミー。」
面影のある青年と握手をした。
「じいちゃん、修理だ!」
奥で茶を飲みながら話を聞いていたであろうじいちゃんにバトンタッチする。
「ああん、どれどれ。」
じいちゃんが、奥からやってきて虫眼鏡を取り出した。この虫眼鏡凄いよね。
「ああ、久しいの。戻ってきたか。あんれまぁ、重傷じゃのう。」
じいちゃんにとっちゃ武器も友達みたいなもんだ。
じいちゃんが重傷だと言った、この場合時間がかかっても直る。
「じいさん。直してもらえるのかい?」
ジェレミーが身を乗り出して聞く。
「うん、ワシには直せん。」
「そんな。じいさん、アンタに直してもらわなきゃ他に誰が治せるんだよ。この街で。」
頭を抱えるジェレミーにじいちゃんが言う。
「手を見せてごらんよ。」
両の手のひらを虫眼鏡でのぞき込むじいちゃん。
「・・・ダメだな。直せん。」
ジェレミーの顔には怒りの色が上ってきた。
「ああ、もういい!他所へ持っていって柄だけ変えてもらうわっ!」
そんなんで、この槍は全力を発揮できないんだがなぁ。
「どうしても行くのか?」
「直してくれないんだろう?他を当たるって!」
ジェレミーは唾を飛ばす勢いで抗議する。
「いや、仇の所にさ。」
じいちゃんの目は優しいけど座っていた。
「え?」
じいちゃんは、他に客がいないことを確かめてこう言った。
「コレ折ったの、オヤジさんじゃろ?アンタじゃない。」
「え?何で知ってんの?言ってないのに。」
「そして、その時に亡くなっておるな。」
「どうして分かるんだ?」
「槍がの、教えてくれたのよ。槍の使い手の父は、そなたの師匠でもあったのだろう?野営の最中に虫に襲われた。まだ未熟なそなたを庇って無理な戦闘になった。追い詰めたが後一歩で槍が折れてしまった。」
「そんなことまで?」
「そなたの頭にゃあ、ふたつの大事なことがある。父の名誉を守ることと、仇をとること。」
ジェレミーはうつむいてしまった。図星だったか?
「当代一の槍の使い手。伝説と呼ばれ尊敬する父であり師匠であったろう。だからワシらに自分が折ったと言った。そして父がもし死んだとしても、伝説が相手を討ち漏らすことはあってはならない。そなたは虫の頭に槍を突き立てて仇を取ろうと考えた。父の槍が刺さっていれば、彼が討伐したこととなろう。」
「そこまで分かっているなら・・・。」
じいちゃんは首を振った。
「槍はのこうも言うておる。直って虫に挑んでも虫は死なない。そなたが死ぬだけ。今度は折れもしないだろう・・・とな。」
「ちくしょうっ!」ジェレミーは吠えた。
自分の実力を分かってるからだよな。それでもここに来たんだもんな。
「これが、ワシがその槍を直せんと言った理由じゃ。」
ジェレミーは泣いていた。
「それでも・・・・。」
「死ぬぞ。手相にも出ておる。」
じいちゃんの虫眼鏡は魔法の虫眼鏡だ。その手相に出たものに間違いはない。
じいちゃんはあきらめるようにと肩に手を置いた。
「母さんももういない。父さんだけだったんだ。家族は・・・。」
「バカなことを言うなっ!父親がそれを望むと思うかっ!自分の名誉より、子の命じゃっ!」
普段、聞いたことのないじいちゃんの一喝だった。
「・・・それでも、引けない時があるんだっ!オレは父さんを越えていかなければならない!」
じいちゃんは、ふうっと息をついた。そして槍を手にとると奥の作業場に消えた。
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