第2話 涙色の酒
「エミル、おい!エミル!」
「あっ!じいちゃん。」
肩を揺すぶられて俺は目を覚ました。
「ちょっとの間、店番を頼んだだけなのに、居眠りとはな。」
「眠ってなんてないよ。」
「そのヨダレは何じゃ?」
あれ、ヨダレ垂らしてたかな?カウンターの木の匂いがする。あー糸引いてら。
俺の名前はエミル。エミル・
この春まで、冒険者なんてことしてたんだけど、足を怪我しちまってあえなく廃業だ。
世間は厳しいね。まともな仕事をしてこなかった上にこの足だ。仕事がみつからねえ。
それで今は、母方のじいさんの家に転がりこんでバイトだ。兵隊と違って退職金なんかねえからな。冒険者には。
じいちゃんの店は、ここサーナ国で一番大きい町、ラーナリーにある装具店だ。アウロンド装具店という。
武器、防具、道具それに各種薬の販売、買取、鑑定そしてクエスト案内の下請けなど手広くやってる。
それに、じいちゃんは品物に
俺?俺は・・・何にもできねぇ。子どもの頃から店番はしてたけど、15の時に飛び出して冒険者になってケガして終わりだ。・・・情けねえ。だから店番やってるのさ。恥ずかし気もなく。
しかし、じいちゃんは言ったもんだ。「ああ、おかえり。待っとったぞ。」
なんだそりゃ、預言者か?
しかし、夢とはいえ嫌なこと思い出しちまったな。
俺は、前の人生の記憶がある。転生者ってやつだ。
あの日、息子が因縁の鎖を切ってくれて、魂だけになって生まれ変わった。
ありがとうな。でもこっちでも、あんまりパッとしなかったかな。父ちゃん。
呼び鈴が鳴ったな。
「いらっしゃい!んっ?」
「おお、居やがった。エミル、似合ってんじゃねーか。店番がよ。」
アカロ、冒険者だ。組んだことはないが、たまに絡んでくる嫌なやつだ。
「お
「ご用件は?」
「んあぁ?まぁ聞けって、お
「要件はないのか?」
「んだよ!客に向かってその口の利き方は?あん?」
まったく、面倒くさいヤツだ。つまみ出すか?
「まぁいいや!買い取ってくれや!」
袋から何か取り出す。ナイフか?
刃渡り15cm、地金はダマスコだな。手入れも行き届いている。柄と鞘の意匠は・・・
ともかくこれは、コイツが持ってていいもんじゃないぜ。
「じいちゃん、買取だ!」
「ああん、どれどれ。」
じいちゃんが、虫眼鏡を取り出した。この虫眼鏡凄いんだよ
「銘は
「おい、じいさん!そんなことはいいんだよ!いくらで買い取ってくれるんだい!」
じいちゃんがアカロを見つめている。
「・・・買わないよ。だってコレ盗品じゃもの。」
「証拠はあるんかコラ!」
さてと、準備しようかねぇ。足は痛いから棒ねえかな?あぁあの安い槍でいいかぁ。
「だって、ナイフがそう言っとる。盗まれた家に問い合わせようか?三日前に賊が入っておる。」
あっやっぱり逃げるんだね。俺は床板の間に槍を差し入れた。
アカロは盛大にコケてくれた。ナイフを放り出して逃げた。さて、衛兵に連絡しようかね。
その夜、喫茶むらさめ。
エミル行きつけの店だ。夜は酒も出してくれる。木を基調にした温かい雰囲気の店だ。
「はい、いつものマグダラのマリアよ。それで、どうなったの?」
カウンターの中の美しい紅い短髪の女性がグラスを差し出す。その酒は深く蒼い涙色だった。
「うん、やっぱり盗まれてた。」
あのナイフは、じいちゃんの鑑定だと300万
でも、金の話はよそう。酒がまずくなるし、彼女も聞かないだろう。
「クエストで手に入れたものではなかったのね。その人捕まったの?」
「まだ逃げてるらしい。まぁ、所属パーティは分かっているからね。廃業だろうよ。」
「また、少し街が荒れてるのかしら?」
「俺はここで酒が飲めればいいよ。」
彼女は笑った。
「一曲歌うわ。」
「ああ、頼むよ。マチルダ。」
ピアノの演奏と共に甘い香りがしてきた。対照的に彼女の歌声は情熱的だった。
俺がいなくても、元
涙色の酒は沁みるな。
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