第88話

値札には、大特価500円と書かれていた。



大特価でもどう見ても足りない。



それを見てハイドが首を横に振る。




ハイドは頭の良い子だ。



自分が持ってるお金では足りないとわかっている。




「おいちゃん、それはおおいいよ。これでかえるだけでいいの」




損をさせてはいけない。と理解もしているようだ。



真っ直ぐおっちゃんを見て言うハイドに心を打たれる。




大きくなったなぁ。



そんなハイドに、おっちゃんはニカッと笑い




「これはなぁ、最後の一カゴなんだよ」



「さいご??」



「そう。でな、最後ってのはなぁ中々売れねぇんだよ」



「そうなの??」




キョトンと俺を見て聞いてくるハイド。



そんなことはないと思う。



これはおっちゃんの優しい嘘だ。




「おっちゃんが言うならそうだろ」




笑って頷く俺に




「おぅ!!だから坊が買ってくれたら、おいちゃん嬉しいんだがなぁ」



「……いいの??おいちゃん、おこられない??」




ポンっとおっちゃんのゴツゴツした手がハイドの頭に乗る。




「ここで一番偉いおいちゃんが決めたんだ。怒られねぇよ」




心配してくれてありがとよ!!と乱暴にハイドの頭を撫で豪快におっちゃん。




「それに坊」



「ん?」



「たくさん頑張ったみたいだしな!ご褒美だ!」




ハイドの膝を見て。



おっちゃんはハイドの手から200円を取った。



そしてそのハイドの手に、りんごの盛りカゴが。




パッと笑うハイド。




「おいちゃん、ありがとう!!」



「おう!!こっちこそいつも買いに来てくれてありがとよっ!!」




わぁぁっ!!と買いに来てくれたお客さん達から歓声と拍手が沸き起こる。




「あたし、イチゴも買うわっ!!」



「おじさんっ!!茄子を2本追加ね!!」




繁盛しだす八百屋。




「へいよー!!ちょいとお待ちっ!!」



「おっちゃん」



「おう!?」



「差額……」



「バカ野郎!それは野暮ってもんだぞ!兄ちゃん!!」




差額を払うと言おうとした俺の肩を叩き仕事に戻るおっちゃん。





なんっつーカッコいいおっちゃんだ。




「「ありがとう!!」」




俺とハイドはおっちゃんに礼を言って頭を下げ、八百屋を後にした。

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