第62話
「良くぞ聞いて下さいました、こちらの御方、何を隠そう」
「隠すんじゃねぇよ」
「いやいや、雪代さん、しーっ!!」
喋ってる‼
今、あたし喋ってるよ!!
とても良いことを言おうと……言う……
……そんな拗ねてもダメですよ。
なんか可愛らしい雪代さんをずっと見てたい気もするが……そろそろ双子達にも追い付かなきゃ。
「あたしの母……いーだだだだだだだだだだだだだだだだだっっ」
つねらないで!!
ほっぺをつねらないで!!
せめて伸ばす方にーーーーーーいーだだだだだっっ!!
母上ですって言おうとしたら、般若になった雪代さんにおもいっきりほっぺをつねられた……。
痛しっっ!!
「この御方は工藤雪代さん。あたしの……父上です」
そうおばあちゃんに紹介した。
あたしには4人……5人?の大好きな父親が居るのだ。
父、海斗さん、雪代さん、健さん、……花音さん?
『あ"?』
ひぃぃぃぃぃっっ!!
「工藤雪代と申します。いつも娘と孫達がお世話になってます」
まっすぐおばあちゃんを見据えた雪代さんが自己紹介をして深々と頭を下げた。
「ゆっ雪代さっっ」
「あら、やだ。お世話になってるのはこっちですよ。どうか顔を上げて下さい」
予想外の事に慌てるあたしと、柔らかく頷きなからポンッと雪代さんの肩に触れるおばあちゃん。
「なんて顔してんだ」
「だって……」
まさか雪代さんがあたし達のことで頭を下げるなんて。
おばあちゃんの言葉に顔を上げた雪代さんはあたしを見て苦笑する。
「私はこの家に住んでます、伊瀬マサヨと申します。ハイネちゃん、八千流ちゃん、ハイドくんとは仲良くしてもらっていて……。独り住まいの私が何かと淋しくないように遊びに来てくれたり、調子の悪いときは看病してくれたり、お買い物を手伝ってくれたりと、本当に私こそお世話になってます」
「そうでしたか」
「今時、こんなことをしてくれるような子達はなかなかいませんよ」
「そうですね。それは本当に」
職業柄、訳ありな若者をたくさん見ている雪代さんが真剣な表情で頷く。
「ハイネちゃんも双子ちゃん達もとてもとても良い子です。私この子達が大好きなんです」
「おばあちゃんっ」
優しい表情であたし達のことをそんな風に言ってくれるおばあちゃん。
あたしが優しいんじゃない、おばあちゃんが優しいからっっ。
だからあたしもっっ優しくなりたいって真似してっ。
色々教えてくれるおばあちゃんを、本当のおばあちゃんのように慕って。
泣きそうになりながら、おばあちゃんに手を伸ばせば、その手をそっと握ってくれる。
暖かな手。
「あたしも子供達もおばあちゃんが大好きだよ~」
そんなあたし達を見て、雪代さんが穏やかに微笑んだ。
そして
「ありがとうございます。この子はあの子達は……」
雪代さんが双子達がいる方を見る。
切れ長の瞳に宿るのは深い愛情。
「俺の自慢の娘と孫達なんですよ」
とびっきりの言葉をくれたーーーーーーーーーーーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます