第十四話:聖騎士団再編への始動! オカマ剣士、清廉なる旗を掲げる

 腐敗幹部たちを叩き伏せた翌朝、アルマルス聖騎士団本部は今までにない空気感に包まれていた。かつては重苦しい威圧や怯えが支配していたが、今は目立つのは若い騎士たちの意欲的な声と、どこか晴れやかな表情の幹部候補たち。広間の柱には、破壊された甲冑の残骸や、散らばった武具がそのままになっているが、逆にその荒々しい痕跡が新生の息吹を感じさせる。


「おはよう、みんな元気?」

 きらびやかな衣装をまとい、筋骨隆々の体躯を誇示するオカマ剣士ジュンが、廊下を闊歩してくる。周囲の若い騎士たちは一斉に目を向け、「ジュンさん、おはようございます!」と爽やかに声を揃える。

 ほんの数日前までなら考えられない光景だ。ジュンは微笑んで手を振り返す。


「さて、悪党の一掃は一段落ついたけど、問題はこれからよね。」

 ジュンは昨夜の戦いでボロボロになった甲冑を外し、修繕中の若い騎士を見やりながら言う。

「騎士団が再スタートを切るには、綺麗事だけじゃ済まないでしょ? 指揮系統もめちゃくちゃだし、ギスギスしてた人間関係も放置できないわ。」


 同意するように頷いたのは、先日からジュンに協力していた若い騎士――名をライゼルという。

「はい。幹部たちが支配していたときは、皆が萎縮して本来の役目を果たせませんでした。これから改革を進めるにしても、団長不在の状態が続くのは厳しいです。」

 そう、腐敗の中心だった老騎士が失脚した今、団長の座は空席のままだ。このままでは大都市の治安維持どころか、他国との外交もままならない。


「ふむ…。まあ、仮の指揮者が必要よね。」

 ジュンは考え込んだように顎に手を当てる。すると、周囲の騎士たちが一斉に視線を送ってくる。「この人しかいない!」とでも言いたげだ。


「え? ちょ、ちょっと待ってよ。」

 ジュンは苦笑しながら両手を広げる。

「まさかあたしに団長をやれとか言わないわよね?」

 一瞬、場の空気が固まるが、ライゼルをはじめとする若い騎士たちは真剣な眼差しだ。


「ジュンさん、あなたしか適任者はいません。剣の実力も申し分なく、人情を大切にする姿勢は誰もが知っています。腐敗を断ち切ってくれたあなたこそ、騎士団を新しく導ける方だと思うんです!」

「そうよ! あんたが団長なら、変に威圧的でもないし、お金に溺れる心配もなさそうだし♡」

 どこからともなく、オカマ口調を真似る妙な声援も飛ぶ。ジュンは思わず吹き出しそうになるが、気を取り直して口を開く。


「まぁ、驚いたわね。あたしだって、ここにずっといるつもりはなかったけど…今の状況じゃ、放り出すわけにはいかないわね。」

 深く息をつき、胸を張る。

「わかったわ、しばらくの間、あたしが責任を持ってこの騎士団を立て直す。だけどね――」


 ジュンは鋭い眼差しで、周囲の騎士たちをぐるりと見渡す。

「あなたたち一人ひとりが、自分の役割をしっかり担わないと何も変わらないわよ。オカマ剣士が一人で大立ち回りしても、組織を運営するのは人との連携。協力、信頼、それが無けりゃまた腐敗するの。」

 騎士たちは頷き合い、皆それぞれの覚悟を固めるように立ち上がる。


 そこへ、扉の向こうから馬蹄の音が響いた。先日の騎士団長(=腐敗の中心)に代わり、他国の要請を受けて使者が到着したのだろう。重厚な扉が開くと、騎馬に乗った伝令らが入ってきて、周囲を見回す。

「団長殿は……って、あれ? おや、ずいぶん雰囲気が違いますね?」

 伝令の男性は少々戸惑いながらも、事情を察したのか、困った顔で尋ねる。

「実は近隣で魔物の発生が相次いでおり、騎士団に早急な派遣をお願いしたいとの要請がありまして…団長はご不在ですか?」


 ジュンは軽くウインクしながら一歩前へ。

「ご不在ってわけじゃないけど、新体制の準備中よ。ま、あたしが暫定的に責任者になるから、要請の詳細を聞かせてもらおうかしら。」

 伝令の男は、筋骨逞しいオカマ剣士を前にたじろぎつつも、「は、はい…!」と書類を差し出す。読み進めるうちに、ジュンの表情は引き締まっていく。


「近隣の村落が魔物に襲われているのね。緊急性が高いわ。聖騎士団としては、ここで腕の見せどころじゃないの!」

 ジュンは書類を片手に、周囲の若い騎士たちを見回す。

「腐敗を根絶したばかりでバタバタしてるけど、街の人々を守るのは我々の務め。それが聖騎士団の本懐でしょう?」


 若い騎士たちの目に炎が灯る。改革に向かうだけでなく、今まさに助けを求めている人々を救う――それこそが新生・聖騎士団の最初の大仕事だ。

「よし、すぐ準備を始めよう。隊を編成して魔物退治に向かうわ。あなたたちもいいわね?」

「もちろんです、ジュンさん!」

 勢いよく返事する騎士たちの姿に、かつての沈滞した雰囲気はない。そこには確かな団結と使命感が生まれていた。


 ジュンは深紅の衣装の裾を軽く整え、周囲に檄を飛ばす。

「いい? あたしは団長代理なんて呼ばれるには派手すぎるかもしれないけど、オカマなめんじゃねぇぞ、ゴラ! あたしが一緒に最前線で戦うから、みんなも覚悟してついてきてちょうだい!」

 この言葉に、騎士たちは声を合わせて「おおーっ!」と雄たけびを上げる。


 こうして、新たに生まれ変わろうとする聖騎士団は、ジュンを中心に動き出す。まだまだ課題は山積みだが、腐敗を断ち切ったオカマ剣士の剣と信念、そして若い騎士たちの熱意があれば、きっとどんな理不尽な出来事も跳ね返せるだろう。

 清らかな誓いを胸に、彼らは今こそ、その最初の大きな戦場へと駆け出していく。


 第十四話、ここまで。

 次回、新生・聖騎士団の初陣! 魔物討伐の現場で、ジュンたちはどんな困難を迎えるのか? 清廉なるオカマ剣士の道はまだ続く。乞うご期待!


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