第十三話:騎士団内乱の火蓋! オカマ剣士、腐敗幹部を一掃せよ

 アルマルス聖騎士団の本部は、まるで嵐の前の静けさに包まれていた。というより、実際には雷鳴がとどろく直前のような重苦しさが広間に漂っている。ジュンが取り出した不正の書類を前に、開き直る幹部たちと、彼らを糾弾する若い騎士たち――両者が対峙し、今にも衝突しそうな気配だ。


 幹部の一人、威圧的な体格の老騎士が、低く怒りの声を漏らす。

「ふざけるな、ジュン…! 貴様は聖騎士団の秩序を乱す元凶だ。もはや騎士団の一員として扱うわけにはいかん!」

 鋭い眼光で睨まれても、ジュンはひるまない。むしろ、その筋骨隆々の体躯をさらに誇示するかのように背筋を伸ばし、口元には余裕の笑みを浮かべる。


「おやおや、それは困るわね。あたしはここを清廉潔白な騎士団にするために入団したんだけど?」

 愛剣の柄に手をかけ、ジュンは広間をぐるりと見回す。若い騎士たちがちらりと目を合わせ、意思を固めるように頷く。その何人かは既に甲冑を身に着け、幹部らの横暴に対抗する準備を整えている。


 すると、幹部側の騎士数名が老騎士の指示を待たずに剣を抜き、ジュンを取り囲むように動き出した。

「これ以上ほざくなら、力ずくで黙らせてやる!」

 彼らは騎士の中でも腕が立つと言われる精鋭だろう。しかし、ジュンは苦笑いを浮かべ、肩をすくめる。


「腕っぷしを誇るなら、恥ずかしくない戦いをしてほしいものね。民を踏みにじるような卑劣な騎士に、そんな資格はないわ!」

 ばちんと足を踏み鳴らし、一瞬のうちに剣を抜いたジュン。その華やかな衣装を翻し、鍛え抜かれた筋肉の力で刃を振るう様は、まるで演舞のように美しく力強い。


 相手側の精鋭騎士が一斉に斬りかかってくる。金属が激しく打ち合う音が広間を満たすが、ジュンは冷静そのもの。相手の攻撃を最小限のステップでいなし、逆手に取って一撃を浴びせる。

 ひとりが仰向けに倒れ、またひとりが腕を弾かれ剣を落とす。見る間に、取り囲んだ精鋭たちは立て続けに戦意を喪失し、床に伏して息を切らしていた。


「こ、こんな馬鹿な…!」

 幹部の老騎士が目を見開く。

「それでも聖騎士団の精鋭なの? もっと鍛えれば?」

 ジュンは挑発するように顎をしゃくり、あざとくウインクする。


 すると、幹部の後ろに控えていた別の騎士たちも剣を抜きかけるが、さすがに一歩踏みとどまっている。そのとき、若い騎士たちが意を決したようにジュンの背後へ回り込み、幹部たちへ毅然と向き合った。


「もうやめましょう、あなた方の理不尽な命令に従うわけにはいかない。騎士として、民を守るのが本来の務めだ!」

「そうだ! 俺たちは正義を盾に金儲けするために、騎士団へ入ったんじゃない!」

 意志を固めた若い騎士たちの声に、幹部らは苛立ちと焦りを滲ませる。数の上でも、既に幹部側が圧倒的優勢とは言えなくなっていた。


「まったく、こんな茶番に付き合う時間はないわ。」

 ジュンは倒れ伏す騎士たちを避けるように歩み出る。そして、幹部の老騎士へ剣先を向け、激しい闘志をうかがわせる鋭い眼差しを向けた。

「あなたが腐敗の大元締めなのね? ここでの決着がつけば、もう余計な被害は出ないと思うけど。」


 老騎士は激昂して机を叩き、噛みつくような口調で吠える。

「ほざくな! 貴様のようなオカマ剣士に何が分かる! ここまで築き上げたものを、おとなしく手放すものか!」

 一瞬にして鋭い斬撃を繰り出す老騎士。年配とはいえ、その動きはまだまだ衰えてはいない。加えて、魔力を帯びた剣の軌跡が妖しく光る。


「なるほど、手強そうね。」

 ジュンはその軌跡をぎりぎりで見極め、きらびやかな衣装を揺らしながら、寸分違わぬタイミングでかわす。一瞬の隙を突いて剣を振るうと、老騎士の腕甲を弾き飛ばす。

「昔は立派だったんでしょう? でも今は、腐った金に目がくらんだ、ただの悪役よ!」


 激突するふたりの剣。一打ち、二打ち、火花と金属音が広間に散り、傍観者たちは思わず息を呑む。若い騎士たちが「ジュン、頑張れ!」と声援を送るなか、ジュンは強靭な体幹を活かして一気に圧力をかける。

 老騎士は抵抗するが、ついに膝をつき、呼吸を荒げながら剣を取り落とした。


「くっ……何者だ、貴様は……!」

 敗北を悟り、悔しそうに目を伏せる老騎士へ、ジュンは勝利を確信した笑みを浮かべる。


「男でも女でもない最強の存在、それがわたし♡ オカマは人情に厚いの。あたしは騎士団を“本当の正義”の場に戻すためなら、いくらでも剣を振るうわ!」

 決め台詞とともに剣を収め、ジュンは周囲の若い騎士たち、そして幹部候補たちをきっぱりと見渡す。


 幹部たちが次々に膝を落とし、ある者は恐れ、またある者は自責の念に苛まれてうなだれる。若い騎士たちの目には新たな決意が光り、拍手や歓声がさざ波のように広まっていく。


「これで腐敗は終わりね。さあ、まだ後始末があるわよ。あなたたちも協力してちょうだい?」

 ジュンが促すと、若い騎士たちは声を合わせて応じる。「はい!」と。広間に一体感が生まれ、聖騎士団はここに新たな一歩を踏み出す。

 騎士団再生への初めの一歩――豪胆なオカマ剣士ジュンの剣が、腐敗の根を断ち切った瞬間だった。


 第十三話、ここまで。

 次回、反乱を鎮圧し、新たな秩序を築くために奔走するジュン。聖騎士団の改革はどう進むのか? 波乱の幕はまだ下りない。乞うご期待!


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