2024.12/24 もつの味噌煮込み1

2024.12/24


 緊張のせいか、少し重い横戸を私はがらりと開けた。店内は思いのほか広い。灯りは小洒落た喫茶店のようにほんのりとした光を放っていて薄暗い。真昼の光が窓ガラスから差し込んでいた。いらっしゃいませ、と迎えてくれた女性店員さんに一名ですと告げると「カウンターでもテーブルでもお好きな方にどうぞ」とにこやかに手で示され、初めての店で戸惑いながら、私はカウンター席に着いた。


 学校帰りの十字路の側に、個人店であろう焼肉屋がどっしりと居を構えている。店の前に止まれ、だったか飛び出し注意だったかの標識が立っているのだが、その標識の柱にいまにも飛び出してきそうなリアルな牛と野菜の描かれた黒板アートが括り付けられている。そしてその焼肉屋は、建物の側面、道沿いの窓を余すことなく使い、焼肉屋の宣伝文句や営業時間、メニュー表を掲示していた。何より私の目を惹いたのは、ごはん、サラダ、味噌汁おかわり無料の文字。更にランチメニューは千円以下と、学生のお財布に優しい。牛すじ煮込みに焼肉屋のカレー。いい響きだ。そんな宣伝上手の個人店にまんまとつられ、私は昼食をその焼肉店で摂ることに決めた。そして、冒頭に戻る。

 店員さんに冷たい水か温かいお茶か、と聞かれたため、私は「温かいお茶でお願いします」と答えた。無論、この季節は暖かいのがいい。ランチセットのメニューを捲れば、生姜焼き、タンシチュー、牛すじ煮込み、もつの味噌煮込み。焼肉屋らしい肉を活かした茶色い料理たちが並んでいる。その全てが九百円代。素晴らしい。千円出せば焼肉ランチセットにも手が届くことに気付いて心が浮ついたが、元より私はその焼肉屋の焼肉以外のランチに惹かれた身だ。と気を引き締め直した。悩ましい。カレーは目玉焼きやら何やら、上にトッピングが一種類載せられるというのが魅力的で、牛すじの煮込みはなかなかどうして焼肉屋と居酒屋以外ではお目にかかれない。と散々悩んだが、ご飯がおかわりできるのなら、味の濃いものを頼むのがよかろうと私はもつの味噌煮込みランチセットを注文した。


 眠い。とても間に合わない。そういう日もある。あすつづきをかく。

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