2024.12/21 呼吸

 未来の話をする、というように書いた気もするが、相変わらず過去の話ばかりしている。

 小説を書くことは呼吸のようだ、と繰り返し過去の私が書いているが、大人になってみるとそうでもない。過去の私は意識せずとも自然とやっている、という意味でも、そうしなければ死んでしまう、という意味でも、よくそういった「呼吸」「酸素」という表現を用いた。

 けれども今思ってみれば一文字たりとも紡がない日でも私は当たり前に息をして、ご飯を食べて、眠って、当たり前に来る朝を享受した。私は、文章を書かずとも生きていけた。

 これは、事実である。それが私にとって幸福か、人生をうまく回すための近道か、ということは関係なく、事実、私は文章から引き剥がされても、二酸化炭素以外の何物をも生み出さなくても、呼吸ができた。そう知った時のかつての私は、何を思ったのだろうか。覚えていない。

 しかし、朧げながら覚えていることがある。その時、私は物を書かずとも生きていけることが苦しいと感じていたような気もするが、一方で私の、それまで小説を、何かを生み出せるということを軸に廻っていた世界に初めて、他の生き方が示されたような気がした。「普通」に生きていける、そんな気がしたのだ。これは後にまやかし……或いは途方もなく長い道のりで、諦めたほうが余程早いことと分かるのだが、この時の私には知るよしもない。

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