第4話 領主の屋敷にて

 「っと、そちらのお三方、領主様のお屋敷へ入るときには武器等の危険物を回収させてください」


 俺たちが門をくぐると、慌てたように門番が呼び止めた。


 「ああ、わかった」


 そうして、俺たちは武器を門番に渡す。


 「終わりましたか?では、行きましょうか」


 ギルマスがそう言うと、俺たちは屋敷の中へ入った。


 

 屋敷の中は外と比べて少し装飾にこだわっていたが、基本的には外見と同じような印象を受けた。基本は石、以上。


 「ああ、これはクリューガ様、ようこそいらっしゃいました。今からアルベルト様とサーラ様をお呼びしますので、こちらの部屋でお待ちください」


 老執事のような恰好をした人がこちらです、と俺たちをとある部屋に案内した。


 だけど、クリューガ?クリューガ......ああ、ギルマスの名前か!名前では呼ばないからすっかり忘れていたな。


 「おい、クリューガって誰だ?」


 ギルバードはやはり知らなかったようで、小声で俺に聞いてくる。


 「ギルマスの名前だよ、俺もさっきまで忘れていたが」


 「へえ、そうだったのか」


 「ここからは私語厳禁ですよ、気を引き締めなさい」


 ギルマスに注意されて、俺たちは口をつぐむ。


 

 ......それから約十五分後。


 コンコン


 扉からノック音が聞こえたと思うと、四十くらいのガタイがいい、目つきが鋭い赤茶髪のおっさんと、まだ十代後半と思われるふわふわした金髪の女の子が入ってきた。おそらく、この人たちがアルベルト様とサーラ様だろう。


 なぜだかアルベルト様はピリピリとした雰囲気を出している。部屋に入ると同時に俺たちのことを睨み、威圧をしているように見える。


 「アルベルト様にサーラ様、この度はわが冒険者ギルドへ依頼を出していただきありがとうございます」


 そうしてギルマスが起立して頭を下げたので、俺たちも習って頭を下げる。若干一名は遅れて頭を下げた。


 「ああ。それで、この三人組が例の?」


 相変わらず俺たちのことを睨んだまま、アルベルト様はギルマスに尋ねる。


 「はい。これがBランク冒険者パーティー『ドラゴンバスターズ』でございます」


 それから、俺たちはギルマスに事前に言われた通りに自己紹介をする。


 「初めまして、私が『ドラゴンバスターズ』のリーダー、戦士のギークです。それから、こちらがタンクの...」


 「俺はタンクのギルバードだ!よろしくな!」


 (って、おいぃぃぃ!)


 何領主様に対してため口でしゃべってんだこいつ!昨日の約束もう忘れたのか!


 俺以外、アリシアとギルマスも口をあんぐりと開けて驚き半分、呆れ半分といったような表情をしている。


 大丈夫か?アルベルト様、怒ったりしていないか?


 「......」


 もともと睨んでいたから怒っているようにしか見えねぇ!


 「...そうか、自己紹介を続けてくれ」


 (...え?)


 「はっ、はい!私は斥候兼弓使いのアリシアです!」


 アルベルト様の予想外の言動に一瞬反応が遅れたアリシアだったが、きちんと受け答えをする。


 「そうか、私はシルフォード領領主、アルベルト・シルフォードだ。そしてこっちが...」


 「サーラ・シルフォードです。この度は私の冒険の護衛を受けてくださってありがとうございます」


 そうして、来ていたドレスの裾を指で持ち上げ、一礼する。貴族流の挨拶だろうか?


 「いえ、こちらこそよろしくお願いします」


 礼儀には礼儀で返さねばと、俺も一礼する。若干遅れてギルバードとアリシアが続く。


 一通りの挨拶が終わると、アルベルト様とサーラ様は俺たちの向かい側にある席に着く。すると、ギルマスが話を切り出した。


 「では、まずどのような形でサーラ様を護衛するか、ですが......」


 それからは、一時間ほど小難しい話がギルマスとアルベルト様との間で行われた。俺が理解できた内容を分かりやすくまとめてみると、


 その一:サーラ様は俺たちのパーティー『ドラゴンバスターズ』に仮加入する。


 その二:依頼期間は一か月間。これは延長される可能性もある。また、一か月間毎日依頼があるわけではない。


 その三:依頼報酬額は一人につき一日で金貨二枚。


 その四:万が一サーラ様に重傷を負わせた場合、ギルドカードは即没収、さらに冒険者ギルドから永久追放、奴隷落ちも可能性がある。


 順を追って説明していこう。まず、その一の「仮加入」というのは、言葉通りの意味である。


 なぜ仮加入なのか、それは、そちらの方がパーティーから加入・脱退の手続きが簡単だからだろう。正式なパーティーメンバーとして加入すると加入金や脱退金がかかるうえ、武器や防具、パーティーで手に入れた宝などの分配なども、ギルドを通して書類上に明記したうえでしなければならなくなる。


 なので、今回のような場合などは仮加入の方が都合がいいのだ。


 その二については特に問題ないだろう。言葉通りの意味だ。


 その三、これはかなり高報酬だ。俺たちなら一日で、よくてもパーティー全員分で金貨二枚分ほどしか稼げないだろう。ちなみに、アリシアが泊っている『グリフォンの巣』という宿は一か月で金貨二枚、一日依頼をこなすだけで一人一か月は泊まることのできる計算になる。


 その四、についても、まあ、妥当な内容だろう。


 実際、護衛依頼について、護衛対象を傷つけた場合にはこのような罰則が依頼を受けた冒険者に科せられる。今回はその護衛対象が貴族だから、その罰則が重く、その分依頼報酬が良くなっている。ハイリスク・ハイリターンというやつだ。


 「では、一通り今回の依頼については話し終えたので、私たちはこれで失礼いたします。貴重なお時間をありがとうございました」


 「ああ、お前たち、明日から娘のことをよろしく頼む」


 「「「はい!」」」


 そうして、領主様のお屋敷での話し合いは終わった。


 ちなみに、明日は二の鐘(十二時)に冒険者ギルドで待ち合わせである。



 ◇◇◇◇◇◇



 ・領主様視点......


 俺は今日、サーラの護衛依頼を引き受けた冒険者パーティーに会いに行く。


 というのも、俺の娘、サーラは昔冒険者に助けられた時から冒険者に憧れを抱いており、いつか冒険者になりたいと小さいころから家族や屋敷の者たちに言っていた。


 俺は、サーラが成長したら自然と冒険者になりたいとは言わなくなるだろうと考えていたのだが、魔法学園を卒業した後もサーラの気持ちは変わらなかった。


 そこで、俺は一度サーラに冒険者はどういうものなのか現実を教えるために、少しの間冒険者として活動させることにした。


 クリューガ(ギルマス)から聞いたのだが、冒険者とは想像よりも泥臭く大変な仕事らしい。そのことを身をもって知ったら、サーラも目が覚めるのではないかと思ったのだ。


 だが、大事な娘を一人で冒険者のような危険な仕事をさせるわけにはいかない。ということで、クリューガにサーラの護衛依頼を引き受けてくれる冒険者を探すよう頼んでおいたのだ。


 俺が出した条件は二つ。


 一つ目は、Bランク以上の冒険者であるということ。サーラの護衛をするには、多く見積もればそれくらいのランクがあった方がいいとクリューガが言っていたので、そうした。


 二つ目は、単独でもパーティーでも、最低一人は女性がいる冒険者だということ。男だけのパーティーにサーラを預けるわけにはいかんからな。


 もし、万が一、その条件でもサーラに手を出すような糞野郎がいたら、その周りの奴らも含めて俺がぶっ〇してやる。絶対に。


 まあそんなわけで、俺は今日、サーラを護衛する冒険者パーティーがどんな奴らなのか確かめるために、この会を設けた、というわけだ。


 コンコン


 扉をノックして部屋に入る。中にいたのはクリューガと、その冒険者パーティーと思われる男二人と女一人。


 男二人のうち、癖のある茶髪をしておりなぜだか苦労人のような印象を受ける顔をしているこの男がリーダーだろう。まあ、感覚でそうだと思っただけだが。歳は三十くらいか?


 あと一人の男は黒髪でガタイがいい、しかし、顔を見ると普段からあまり物を深く考えていないことがわかる。これも勘だが。


 女の方は、長い白髪をしており整った顔からは理知的な印象を受ける。このパーティー内では頭脳派なのだろうか?(全然違う)


 一通り見た印象では、特にこれと言って悪い印象はない。十年前からの付き合いであるクリューガが推薦してきたパーティーなので、一応信じてみることにするか。


 まあ、サーラにもしものことがあれば厳しい罰則を科す、と決めたので、よほどのことがない限りは大丈夫だろう。

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